大動脈弁狭窄症(AS)の非侵襲的治療としてカテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)が日本で使用されるようになり、今年で11年目を迎える。従来TAVIの適応は80歳以上の高齢者や、バイパス術などの開胸術の既往を有するなどの高リスク症例が対象であったが、低リスク症例への適応拡大や世界的に平均寿命が延伸する昨今、弁機能不全を呈して再治療を必要とする患者が増加傾向にある。2023年には再治療の選択肢として本邦でもSAPIEN3(以下、S3)によるTAV in TAV(現在はS3 in S3に限定)が承認されたことで、TAV in TAVの課題理解は急務とも言える。一方で、外科的大動脈弁置換術(SAVR)の時点でも、将来のTAV in SAVの可能性を踏まえた弁選択が問われるところである。
今回、Redo TAVアプリ1)の開発に携わった岡田 厚氏(国立循環器病研究センター心不全・移植部門/Minneapolis Heart Institute Foundation, Valve Science Center)が『ついに始まったTAV in TAV~見えてきた新たな課題とRedo-TAVアプリの役割~』と題し、10月4~6日に開催された第28回日本心不全学会学術集会のシンポジウムで、現状の課題と解決策について解説した。
見えてきた2つの課題
一見簡単そうに見えるTAV in TAVだが、実際の症例を目の当たりにした同氏には2つの課題(Feasibility[実現可能性]、planningの複雑性)が見えてきたという。1つ目の課題である “安全に施行できる可能性”について、S3 in S3あるいはEvolut in S3は57~70%、S3 in EvolutあるいはEvolut in Evolutでは18~77%と報告
2-7)されており、「以前にTAVIを受けた患者さんのうち約20~30%にはTAV in TAVが行えない可能性」に直面していると同氏はコメントした。また、2つ目の課題については、「TAV in SAVと比べると、TAV in TAVでは弁のデザインがさまざまで、留置の深さが症例ごとに異なる、in vitroとin vivoでは形や広がり方が異なる、組み合わせごとにプランニングが変わる」などを指摘し、TAV in TAV時に冠動脈血流へのリスクを理解するためには「透視で見えないLeaflet/Skirtの挙動を十分考える必要があるなど、入念なプランニングを要する」と同氏は説明した。
新たな言葉がさまざま登場
また、TAV in TAVを安全に施行可能かFeasibilityの評価を行うためには、以下に示す新たな用語や概念を押さえておく必要もあり、その一部を以下に示す。
◯Neoskirt/Neoskirt plane
TAV in TAV後、1つ目の弁のLeafletが”pinned open”されることによって形成される、血流もカテも通らない筒状の構造物。Tube graftと表現されることもある。冠動脈血流との干渉を評価するために必須で、弁の組み合わせごとにNeoskirtの高さ(Neoskirt plane)は変わり、Feasibility評価の肝となる。
◯Leaflet overhang
主にShort in Tallの組み合わせ(主にS3 in Evolut)で起きうる現象。Leafletがsecond TAVの上に乗り出した状態。ベンチテストでは弁機能への影響は少ないとされているが、実臨床でのデータはまだ十分ではない。
◯Sinus sequestration
Sequestrationという単語は隔離・没収を意味し、Neoskirt planeがsinotubular junction(STJ)より上になり、かつVTSTJ(後述で説明)が短い場合に、Valsalva洞全体の血流が途絶する現象。
◯VTSTJ
Neoskirt(もしくは弁)からSTJまでの距離。Sinus sequestrationのリスク評価の際には、冠動脈入口部との距離(VTC)ではなく、VTSTJが重要となる。
TAV in TAVが安全に施行可能か評価するためには、上記のような比較的新しい用語・概念の理解が必要であり、Redo TAVアプリ内には、用語の解説や実例などの教育的コンテンツもふんだんに含まれていると紹介した。
新しい「Redo TAVアプリ」コンテンツの活用
今年にTAV in TAVに関する情報をまとめたRedo TAVアプリが追加され、Vinayak N. Bapat氏らのチームにより作成された4作目のアプリとなった。その中でも本アプリの特徴として、「Procedure guideセクションには手技動画や注意点に加え、メーカーの垣根を超えて各TAVI弁の情報を集約している。CT Planningセクションではあらゆる弁の組み合わせに対応したシステマティックなリスク評価が可能で、最後のStepで解剖学的な位置関係とリスクが一目でSummarizeされるように仕上がっている」と、1つのアプリで情報収集から手技のシミュレーションまで一貫してできる点を説明した。
最後に、同氏は「今後は、初回のTAVI治療の前から、将来の再治療(TAV in TAV)の可能性まで視野に入れた大動脈弁疾患のLifetime managementが重要となる」と発表を締めくくった。
■参考
1)
Minneapolis Heart Institute Foundation:Digital Apps for Physicians
2)
Okada A, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2024;17:e013903.
3)
Fukui M, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2023;16:e013497.
4)
Miyawaki N, et al. JACC Asia. 2024;4:25-39.
5)
Kawamura A, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2024;168:76-85.
6)
Ochiai T, et al. JACC Interv. 2023;16:1192-1204.
7)
Ishizu K, et al. Am J Cardiol. 2022;165:72-80.
(ケアネット 土井 舞子)