早期アルツハイマー病治療薬ケサンラの臨床的意義とは/リリー

提供元:ケアネット

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公開日:2024/11/07

 

 日本イーライリリーは2024年10月29日、「ケサンラ承認メディアセミナー ~早期アルツハイマー病の当事者の方々が、自分らしく生活できる時間を伸ばす~」と題したメディアセミナーを開催した。早期アルツハイマー病(AD)治療薬「ケサンラ点滴静注液350mg」(一般名:ドナネマブ)は、同年9月24日に「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」を効能または効果として日本における製造販売承認を取得している。本セミナーの冒頭では、日本イーライリリーの片桐 秀晃氏(研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)が同社の取り組みとして、「世界中の人々のより豊かな人生のため、革新的医薬品に思いやりを込めて」という使命をもとに、認知症への理解促進と治療アクセスの向上に努め、共生社会の実現に向けて尽力していく意向を示した。

認知症は診断前から病態が進行している

 ケサンラの投与対象となるのは軽度認知障害(MCI)および軽度の認知症の患者であるが、こういった患者の病態について古和 久朋氏(神戸大学大学院 保健学研究科)が解説した。ADの進行プロセスにおいては、アミロイドβが脳内に蓄積してアミロイドβプラーク(老人斑)が形成される現象が、MCIの発症前のプレクリニカル期から起こるとされている。その後はタウと呼ばれるタンパク質が蓄積し、神経細胞死、脳萎縮が続けて起こり、最終的に認知症になるということが明らかとなってきているという。ケサンラは、このアミロイドβプラークをターゲットとした抗体で、プラークに結合することで貪食細胞が脳内に蓄積したプラークを除去し、症状の進行を遅らせる薬剤とされる。

認知機能低下の進行を抑制する治療薬

 続いて、ケサンラの臨床試験結果について小森 美華氏(日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)が解説した。国際共同第III相臨床試験であるAACI試験(TRAILBLAZER-ALZ 2試験)は、60~85歳の早期AD患者1,736例が参加した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、ケサンラの有効性と安全性を評価した試験である。試験においては被験者を無作為にケサンラ群(860例)とプラセボ群(876例)に分け、4週ごとに72週間静脈内投与した。ケサンラ群においてアミロイドPETでアミロイドβプラークの除去が確認された患者は、盲検下のままプラセボ投与に切り替えられた。患者背景は、平均年齢が約73歳、ADのリスク因子とされるAPOEε4キャリアが約7割、MMSEの平均は約22点であった。主要評価項目は、ベースラインから76週までの統合アルツハイマー病評価尺度(iADRS)スコア(範囲:0~144、スコアが低いほど障害の程度が大きい)の変化量とされ、副次評価項目には臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB)スコアの各項目スコアの合計(範囲:0~18、スコアが高いほど認知障害の程度が大きい)の変化量が含まれた。

 76週時点のiADRSスコアの変化量は、全体集団ではケサンラ群で-10.19、プラセボ群で-13.11であり、進行抑制率は22.3%であった。そのうち、軽度/中等度タウ蓄積集団においては、ケサンラ群で-6.02、プラセボ群で-9.27であり、進行抑制率は35.1%であった。また、CDR-SBスコアの変化量は、全体集団ではケサンラ群で1.72、プラセボ群で2.42であり、進行抑制率は28.9%、軽度/中等度タウ蓄積集団では、ケサンラ群で1.20、プラセボ群で1.88であり、進行抑制率は36.0%であった。この結果は、全体集団においては76週の間で5.44ヵ月の症状進行の遅延に相当し、軽度/中等度タウ蓄積集団においては76週の間で7.53ヵ月の症状進行の遅延に相当するという。探索的評価項目であるアミロイドβプラーク除去(アミロイドPETで陰性の基準となる24.1センチロイド未満)を達成した患者の割合は、全体集団では52週で66.1%、76週で76.4%であり、軽度/中等度タウ蓄積集団では52週で71.3%、76週で80.1%であった。さらに、途中でケサンラからプラセボに投与を切り替えた集団においても、背景調整をしていない全体集団のプラセボ群との比較であるものの、76週にかけて継続してCDR-SBスコアの悪化の抑制が認められたという。

 安全性については、有害事象の発現割合はケサンラ群で89.0%(759/853例)、プラセボ群で82.2%(718/874例)であった。アミロイド関連画像異常(ARIA)の発現に関して、ARIA関連事象の発現がケサンラ群で36.8%(314例)、プラセボ群で14.9%(130例)に認められた。その中でも、ARIA-E関連事象はケサンラ群で24.0%(205例)、プラセボ群で2.1%(18例)に、ARIA-H関連事象はケサンラ群で31.4%(268例)、プラセボ群で13.6%(119例)に認められた。ARIAの症状としては、頭痛や悪心、錯乱が多く報告されているという。

 投与における注意点として、小森氏は「定期的なMRIの撮影や、点滴中や点滴後30分間の経過観察といった安全管理を行うこと」と語った。

患者が自分らしく生きていけるための治療を目指して

 最後に、古和氏は臨床試験結果からみたケサンラの臨床上の価値について語った。ケサンラの投与により1年で約66%の患者のアミロイドβプラークが除去されたことから、治療を早めに終えることで患者の負担を減らすことができ、さらに「アミロイドβプラークを除去すること」を医師と患者の共通の目標とできることは大きなメリットであるという。また、認知機能低下の進行を抑制できるということは、患者が現在の生活を少しでも長く続け、自分らしく過ごすことが可能になるという希望を与えることにつながるとされる。さらに同氏は、医療現場ではケサンラ投与患者のフォローアップ体制の整備が進んでいるとし、本薬剤について「現在の日本の医療体制であれば、十分に効果と安全性に考慮しながら投与できる薬だろう」と締めくくった。

(ケアネット 生島 智樹)