本邦初、がん患者の「気持ちのつらさ」のガイドライン/日本肺癌学会

提供元:ケアネット

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公開日:2024/11/13

 

 2024年10月、日本がんサポーティブケア学会と日本サイコオンコロジー学会は『がん患者における気持ちのつらさガイドライン』(金原出版)を発刊した。本ガイドラインは、がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズの第4弾となる。第65回日本肺癌学会学術集会において、本ガイドラインの作成委員長の藤澤 大介氏(慶應義塾大学医学部)が本ガイドライン作成の背景、本ガイドラインで設定された重要臨床課題と臨床疑問(CQ:クリニカルクエスチョン)を紹介した。

気持ちのつらさはがん治療や生命予後に悪影響

 がん患者における気持ちのつらさは、QOLの低下や痛みの増強を招くだけでなく、がん治療のアドヒアランスの低下を招き、入院期間の延長や生命予後の悪化にもつながる。しかし、その多くは予防や治療が可能であると藤澤氏は強調する。そこで、本ガイドラインでは臨床における気持ちのつらさへの対応方法をアルゴリズムとして示した。

 まず、気持ちのつらさへの対応の大原則として「初めから精神心理の専門家が関わるのではなく、すべての医療従事者が温かく常識的な対応をすることが重要である」と藤澤氏は述べた。具体的には、(1)支持的なコミュニケーション、(2)気持ちのつらさの可能性への気付き、(3)ニーズの特定と対応、(4)気持ちのつらさに類似した医学的状況の除外、が必要である。これらの対応をしたうえで、気持ちのつらさが持続する場合や、症状の重い気持ちのつらさが存在する場合には、より精神・心理ケアに特化した介入を検討するという流れである。詳細はガイドラインを参照されたい(p.96~100)。

閾値以上の気持ちのつらさの緩和に関する9つのCQを設定

 本ガイドラインでは、気持ちのつらさを緩和するための介入について、6つの重要臨床課題と9つのCQを設定した。なお、介入の効果の指標としてはうつ、不安、両者を統合したdistressを用いた。また、気持ちのつらさは正常範囲のものではなく、臨床的介入が必要とされる一定の重症度以上(閾値以上)のものを対象としている。

 藤澤氏は、本発表では9つのCQのうち「薬物療法(CQ1、2)」「協働的ケア(CQ4)」「早期からの緩和ケア(CQ5)」「ピアサポート(CQ7)」について紹介した。

 9つのCQのなかで、唯一強い推奨となったのは、協働的ケアであった(CQ4、推奨の強さ1[強い]、エビデンスの確実性[強さ]:A[強い])。協働的ケアとは、プライマリ・ケア提供者と精神心理の専門家が協力体制を作って、系統的なケアを提供するというモデルである。海外では、プライマリ・ケア提供者はトレーニングを受けた看護師が担うことが多い。協働的ケアは、本ガイドラインでは強い推奨となったものの「本邦での現状を考えると、実施していない施設が多いのではないか」と藤澤氏は指摘した。そこで、解決策として「がん診療拠点病院には、認定専門看護師が在籍しており、がんカウンセリング料などが算定できる。また、緩和ケアチームが機能していることが多いと考えられるため、がん診療拠点病院にハブとして機能していただき、精神心理の専門家、精神科などと連携しながら系統的な介入の実施を検討していくのが良いのではないか」と述べた。

 続いて、藤澤氏は薬物療法について説明した。薬物療法で用いられるのは抗不安薬(CQ1)、抗うつ薬(CQ2)であるが、これらは本ガイドラインでは弱い推奨となった。この根拠として、対象をがん患者に限定すると、薬物療法のエビデンスはあまり確立していないことが挙げられた。ただし、抗不安薬や抗うつ薬は、がん患者に限定しなければ、不安やうつに対して十分なエビデンスを有しているため、有害事象について慎重に考慮したうえで使用することを提案するという形であると、藤澤氏は説明した。

 早期からの緩和ケア(CQ5)については、「気持ちのつらさの改善を目的とした場合、単独では推奨しない」という推奨となった。この根拠としては、閾値以上の気持ちのつらさを有する患者を対象とした研究がなかったこと、閾値を設定しない研究では良好な結果もあったものの有意差がない研究が多かったことが挙げられた。ただし、藤澤氏は「早期からの緩和ケアは、進行がんの患者における症状緩和やQOLの向上に有益であることがわかっており、すべてのがん患者に対して実施を考慮すべきという基本スタンスは変わっていない」と付け加えた。

 ピアサポート(CQ7)についても、早期からの緩和ケアと同様に「気持ちのつらさの改善を目的とした場合、単独では推奨しない」という推奨となった。こちらも、その根拠としてはエビデンス不足が挙げられた。ただし、うつ・不安以外のアウトカムの改善(例:自己効力感の向上)を認める研究はあり、「実施を否定するものではなく、より専門的な精神心理的介入と併用しながら実施することは十分に考えられる」と藤澤氏は述べた。

 本発表の結語として、藤澤氏は「気持ちのつらさに対する介入には、すべての医療者が行うべき対応と、より専門的な介入がある。すべての医療者が重要なプレイヤーであり、専門的な介入に関するエビデンスを踏まえながら協働的に実施する形を作っていきたい」と述べた。

(ケアネット 佐藤 亮)