米国心臓協会(AHA)は、心不全の補完代替療法に関する科学的ステートメントをまとめ、「Circulation」に12月8日掲載した。魚油サプリメント、各種ビタミン、コエンザイムQ10、ヨガ、太極拳などについて、現時点のエビデンスを総括した上で、推奨や注意事項などを述べている。
米国の20歳以上の心不全患者数は約600万人であり、その3割程度が補完代替療法を利用していると推測されている。ステートメントの筆頭著者である米ウエスタン健康科学大学のSheryl Chow氏は、「補完代替療法に用いられている製品は、米食品医薬品局(FDA)の規制をほとんど受けないため、メーカーは有効性や安全性を実証する必要がない。医療専門職者と消費者の双方が、メリットの可能性と潜在的なリスクについて学び、最新の情報を共有した上で意思決定することが重要だ」と述べている。また消費者に対して、「多くの人が、それらの商品がFDAの規制対象外の製品であることを知らずに利用している。同じ成分名で販売されていたとしても、含有量や純度は製品によって大きく異なることもある。よって使用に際しては、まず医療チームに相談すべき」と助言している。
AHAのステートメントによると、心不全患者にメリットをもたらす可能性があるとされる補完代替療法の中で、最もエビデンスが強固なのは魚油(オメガ3脂肪酸)であり、医師との相談の上で適量を摂取することは安全だという。オメガ3脂肪酸サプリの有用性を示唆する、小規模な無作為化プラセボ対象試験の報告もあるとのことだ。ただし、高用量を摂取した場合に不整脈のリスクが上昇する可能性があるため、1日の総摂取量は4g未満とするとされている。
一方、心不全の一因としてチアミン(ビタミンB1)欠乏症が知られているため、チアミン摂取が心不全に有効な可能性がこれまで検討されてきている。ただし、いまだ明確なエビデンスがないことから、ステートメントには、欠乏に伴う臨床症状を生じていない心不全患者がチアミンを習慣的に摂取することは支持されないと記されている。コエンザイムQ10については、現時点では心不全に対する影響ははっきりしないとのことだ。
食品以外では、ヨガや太極拳の有望性に触れている。それらは安全であり、運動耐容能や生活の質(QOL)の改善、炎症マーカーの低下などの作用が報告されており、医療ガイドラインに基づく治療の補助的なアプローチとして利用可能とされている。
ステートメントでは上記のほかに、カフェイン、アルコール、甘草、L-アルギニン、グレープフルーツジュースなどを幅広く取り上げている。それらの中には、患者の状態によっては健康上のリスクになり得るものもあり、より確実な理解のためにさらなる研究が必要としている。なお、このステートメントは心不全患者に焦点を当てたものだが、Chow氏は、「心不全以外の健康上の問題を抱えている人にとっても重要な情報である」と述べている。
米シダーズ・サイナイ医療センターのMichelle Kittleson氏は、今回のAHAのステートメント発表を歓迎している。同氏は心不全治療のスペシャリストだが、そうであっても補完代替療法を利用している患者の管理にしばしば迷いが生じるとのことだ。「このステートメントには、参考文献として210報もの論文が掲げられている。著者らがそれらを吟味しまとめてくれたおかげで、われわれは同じことをしないで済む。多くの臨床医は、医薬品との相互作用の理解のために、このような情報を必要としているはずだ」とKittleson氏は語っている。
[2022年12月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら