精巣がん患者のうち、初期の転移性セミノーマ患者では、化学療法や放射線療法は必要ではなく、後腹膜(腹膜の外側と腹壁の間の腔)にあるリンパ節の切除〔後腹膜リンパ節郭清術(RPLND)〕だけで十分であるという研究結果が報告された。研究論文の筆頭著者である、米南カリフォルニア大学ケック医学校の泌尿器科腫瘍医Siamak Daneshmand氏は、「試験対象者の大多数がRPLNDのみで治癒し、従来の化学療法や放射線療法に付随する毒性を回避できることが本研究で示された。われわれは、セミノーマに対するこの手術が、近い将来、治療ガイドラインに組み込まれることを確信している」と話している。研究の詳細は、「Journal of Clinical Oncology」に3月13日掲載された。
精巣がんは15〜35歳の若い男性に最も多く発生するがんであり、たいていの場合、治療可能である。精巣がんでは、まず精巣の摘出手術を行う。その後、腫瘍組織の病理組織検査により、セミノーマ(精上皮腫)と非セミノーマに分類した上で、それぞれに適した治療を行う。がんの転移が腹部大動脈と腹部大静脈周囲のリンパ節にとどまっている早期転移性(ステージ2)セミノーマに対しては通常、リンパ節のがんを化学療法と放射線療法により小さくしたり、がん細胞を死滅させたりする治療が行われる。RPLNDは、そのような治療が奏効しない際に実施されるが、転移性セミノーマに対する単独の治療法としては実施されていない。
しかし、化学療法や放射線療法は、心疾患や二次がんなどの長期的な副作用を伴う。この問題に対処するために、Daneshmand氏らは、後腹膜のリンパ節腫脹の程度が小さい(1〜3cm)セミノーマ患者55人を今回の試験に登録。ファーストライン治療としてRPLNDを実施し、その安全性と有効性を検討した。主要評価項目は、2年無増悪生存率とした。
その結果、RPLND後、中央値33カ月の追跡期間中に12人でがんが再発したが(再発率22%)、対象患者の81%は2年間がんが再発することなく生存していた。2年時点での全生存率は100%を達成した。がんが再発した10人には化学療法が、残る2人には再手術が行われた。最後の追跡調査時にこれらの再発患者は、病状が悪化することなく生存していた。安全性に関しては、短期的な合併症が4人に生じ、長期的な合併症として、切開ヘルニア(1人)と無射精(3人)が生じた。
Daneshmand氏は、「100%の全生存率は、手術後に再発した患者でも治癒可能であることを示唆している」とケック医学校のニュースリリースで、述べている。さらに同氏は、「早期の転移性セミノーマは、生存率が極めて高いものの、化学療法や放射線療法で治療した場合、治癒には高い犠牲を伴う可能性がある。それに対して手術による治療では、患者は治癒を見込めるだけでなく、闘病後の高いQOLを得ることもできるだろう」と述べている。
[2023年4月3日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら