坐骨神経痛による痛みや障害に対する治療として、手術は最良の選択肢とは言えないのではないかとする論文が、「The BMJ」に4月19日掲載された。シドニー大学(オーストラリア)のChristine Lin氏らの研究によるもの。
Lin氏は坐骨神経痛を、「腰椎椎間板ヘルニアなどによって脊髄の神経が圧迫されるために生じる下肢の痛みであり、腰の痛みや筋力の衰え、下肢の異常感覚として現れることもある」と解説する。治療法としては、「侵襲性の低い手段が優先されるが、その効果が不十分な場合には手術が推奨されることが多い」という。
今回、Lin氏らは、その手術治療の有効性をシステマティックレビューとメタ解析により検討。ヘルニアを取り除く椎間板切除術によって、術後の短期間は痛みと障害の抑制効果が確認されたものの、1年後には手術をしなかった群との差がほとんど見られないという結果だった。ただし同氏によると、「坐骨神経痛の治療は手術以外にも、理学療法やステロイドの局所注射など複数の方法があるが、どれも科学的エビデンスが十分でない」とのことだ。
システマティックレビューには、Medline、Embaseなどの文献データベースを利用。2022年6月までに収載された論文から、画像検査で診断された椎間板ヘルニアに対して、椎間板切除術の有効性を対照群(薬物療法、プラセボ投与、シャム手術などの非外科的治療)と比較検討している、24件の無作為化比較試験の報告をメタ解析の対象として抽出した。下肢の痛みと障害の程度は、0~100点のスケールに変換し、両群の差が20点を超えた場合は効果が「大」と判定。10~20点は効果が「中」、5~10点は「小」、5点未満は「わずか」と判定した。
メタ解析の結果、下肢の痛みに対しては、手術後の早期には軽減効果が認められるものの、時間の経過とともに群間差が小さくなっていき、障害に対しては手術後の早期から群間差が少ないことが明らかになった。より具体的には、術後3カ月までは痛みに対する効果が「中」、障害に対しては「小」、3~12カ月ではどちらも「小」であり、12カ月時点の評価ではどちらも「わずか」と判定された。
これを基にLin氏らは、「椎間板切除術が非外科的治療よりも有効であるとするエビデンスは低い、もしくは非常に低い」と結論付けている。ただし、この結果に関して同氏は、「以前の研究でも同様のデータが示されており、驚くべきことではない。坐骨神経痛は、治療にかかわらず時間の経過とともに改善することが多いものだ」と解説。一方で、「手術は症状を迅速に緩和する可能性があり、早期治療の選択肢と見なしても良いのではないか。手術のリスクとコストをメリットが上回ると考えられる患者にとっては、重要な選択肢となり得るだろう」と付け加えている。
この論文に対して、英オックスフォード大学のAnnina Schmid氏らが付随論評を寄せている。Schmid氏はその中で、「坐骨神経痛患者の多くは、理学療法、薬物療法、または手術のいずれを選択するかにかかわりなく、自然に症状が軽快する。その影響もあり、この研究に見られるように、外科的治療と非外科的治療は、長期的には同等の改善効果を示すと考えられる」と述べている。
[2023年4月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら