恋愛関係に関して昔から言われる「正反対の者同士は惹かれ合う」という説は、実際には正しくないようだ。何万組ものカップルを対象に130種類以上の特性について相関を調べた結果、正反対の者同士が惹かれ合うという主張を裏付ける結果は得られなかったことが報告されたのだ。米コロラド大学ボルダー校のTanya Horwitz氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Human Behaviour」に8月31日掲載された。
Horwitz氏によると、正反対の者同士は惹かれ合うという説は、心理学者のRobert Winch氏が1950年代に、いくつかの特性が「相補的」であり、人は自分に足りない部分を補ってくれる正反対の特性を持ったパートナーを選ぶ場合があると示唆したことに由来する可能性があるという。しかし、正反対の者同士が惹かれ合うという説を裏付ける科学的なデータはほとんどなかった。
Horwitz氏らは今回、2022年8月16日までに発表された199件の査読済み論文を基にシステマティックレビューとメタアナリシスを実施し、共同で育児をしているカップルや夫婦など計480組の男女のカップルを対象に、22種類の特性について相関を検討した。さらに、UKバイオバンク参加者から抽出した7万9,074組のカップルを対象に、133種類の特性について相関を検討した。
その結果、二つのメタアナリシスで検討した特性の82〜89%について、カップル間で正の相関が認められ、特に、政治的態度、宗教的態度、教育レベル、特定のIQ指標の相関が強いことが明らかになった。例えば、199件の研究を対象にしたメタアナリシスでの政治的価値観に関する相関係数は0.58であった。相関係数は相関の強さを測る指標であり、0はカップル間での相関なし、1はカップルがその特性を共有していることを表す。また、物質使用に関してもカップルは高い相関を示し、特に、ヘビースモーカー、大量飲酒者、禁酒主義者同士がカップルになる傾向の強いことが示された。身長や体重、精神的特性、性格特性についても、相関係数の値は低いながらも正の相関が認められ、例えば神経症傾向に関する相関係数は0.11であった。その一方で、ビッグファイブ理論の五つの性格特性の一つである外向性については、ほとんど相関が認められなかった(相関係数は0.08)。さらに、UKバイオバンクの解析からは、クロノタイプが夜型の人は同じ夜型の人よりも朝型の人とカップルになる場合が多いことが示された。この結果についてHorwitz氏は、「現時点では理由は不明であり、偶然の結果である可能性もある」としている。
ただし、これらの結果は、人が、自分とは大きく異なる人に魅力を感じることはほとんどないということを意味するわけではない。Horwitz氏は、「われわれが対象にしたのは、一緒に暮らしたり、共同で育児を行ったりしているカップルだ。つまり、これらの結果は、付き合いの長いカップルの関係について当てはまることだと言える」と説明している。
今回の研究には関与していない米ウェルズリー大学心理学分野のAngela Bahns氏も、カップル間の特性の相関に関する研究を進めている。同氏は、2016年に発表した研究で、恋愛関係と友人関係の双方で、似た考えを持つ人同士が引き寄せられること、また、そのような2人が一緒にいる過程で徐々に似てくるのではなく、最初から類似点があることを明らかにしていた。Bahns氏は、大卒の人の周りには高卒の人よりも大卒の人の方が多いといった構造的な要因はあるものの、相手が自分と共通の考えを持っていると自分が認められていると感じることも、その人に魅力を感じる理由の一つなのではないかと指摘している。
Horwitz氏らは現在、本研究では除外された同性のカップルに焦点を当てた別の分析を行っている最中だという。
[2023年9月8日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら