帝王切開で生まれた児は、初回の麻疹ワクチン接種だけでは予防効果を得にくいようだ。新たな研究で、経膣分娩で生まれた児に比べて帝王切開で生まれた児では、初回の麻疹ワクチン接種後に免疫を獲得できないワクチン効果不全に陥る可能性が2.6倍も高いことが示された。英ケンブリッジ大学遺伝学分野のHenrik Salje氏らによるこの研究結果は、「Nature Microbiology」に5月13日掲載された。
研究グループは、「麻疹ウイルスは感染力が非常に強く、たとえワクチン効果不全率が低くてもアウトブレイク発生のリスクはかなり高くなる」と説明する。麻疹は、鼻水や発熱などの風邪に似た初期症状が生じた後に特徴的な発疹が現れる。重症化すると失明、発作などの重篤な合併症を引き起こしたり、死に至ることもある。1963年にワクチン接種が導入される以前は、麻疹により毎年推定260万人が死亡していた。
この研究では、中国の母親と新生児から成るコホートと小児コホートの2つのコホートから抽出された0歳から12歳の小児1,505人の血清学的データと実証モデルを用いて、出生後の抗体の推移を調べた。これらの試験対象者は、ベースライン時とその後6回の追跡調査時(新生児コホートでは生後2・4・6・12・24・36カ月時、小児コホートでは2013〜2016年の間にほぼ6カ月おき)に静脈血を採取されていた。
その結果、対象児ごとの差異はあるものの、出生時からワクチン接種後までの麻疹ウイルスに対する抗体レベルの変化を、かなり正確に予測できることが明らかになった。また、経膣分娩で生まれた児と比べて帝王切開で生まれた児では、初回の麻疹ワクチン接種がワクチン効果不全になるオッズが2.56倍であることも示された。初回接種後にワクチン効果不全が確認された児の割合は、帝王切開で生まれた児で12%(16/133人)であったのに対し、経膣分娩で生まれた児では5%(10/217人)であった。しかし、初回接種後にワクチン効果不全が確認された児でも、2回目の接種後には強固な免疫反応が認められた。
Salje氏は、「この研究により、帝王切開か経膣分娩かという分娩法の違いが、成長過程で遭遇する疾患に対する免疫力に長期的な影響を及ぼすことが明らかになった」と述べている。同氏は、「多くの児が麻疹ワクチンを2回接種していないことが分かっている。2022年に麻疹ワクチン接種を1回しか受けていなかった児の数は世界で83%に上り、これは2008年以降で最低の数字だ。そのような状態は、本人のみならず周囲の人にも危険をもたらしかねない」と危惧を示し、「帝王切開で生まれた児は、われわれが確実にフォローアップして、麻疹ワクチンの2回目接種を受けさせるようにするべきだ」と述べている。
帝王切開で生まれた児でワクチン効果不全に陥る可能性が高い理由について、研究グループは、腸内マイクロバイオームの違いによるものではないかと推測している。経膣分娩では、母親からより多様なマイクロバイオームが児に移行する傾向があり、それが免疫系に保護的に働く。Salje氏は、「帝王切開で生まれた児では、経膣分娩で生まれた児のように母親のマイクロバイオームにさらされることはないため、腸内細菌叢の発達に時間がかかる。このことが、ワクチン接種後のプライミング効果を低下させていると考えられる」との考えを示している。
[2024年5月14日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら