肺の中を泳いで進み、抗がん薬をがん細胞に直接投与できる、極めて微小なロボット(マイクロロボット)の開発に関する研究成果が報告された。肺転移のあるメラノーマのマウスを用いた初期の試験で、このマイクロロボットによる治療によりマウスの平均生存期間が延長することを確認できたという。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)化学・ナノ工学教授のLiangfang Zhang氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に6月12日掲載された。Zhang氏は、「マイクロロボットは、命に関わるさまざまな肺の病気と闘うために、肺組織全体に治療薬を積極的かつ効率的に送達できるプラットフォーム技術だ」と話している。
この研究で報告されたマイクロロボットは、抗がん薬(ドキソルビシン)を充填したナノ粒子を、鞭毛を持ち遊泳能力のある緑藻(Chlamydomonas reinhardtii)の細胞表面に化学的に結合させて作成される。緑藻により移動能力を付与されたマイクロロボットは、肺内を効率的に泳ぎ回ってがん細胞にナノ粒子を届けることができる。ナノ粒子自体は球形の小さな生分解性ポリマーでできており、内部にはドキソルビシンが封入され、外面は赤血球膜でコーティングされているという。論文の共著者であるUCSDのナノ工学分野のZhengxing Li氏は、「赤血球膜を使うことで、ナノ粒子を免疫システムから保護することができる。コーティングされたナノ粒子は赤血球のように見えるため、免疫反応が引き起こされることはないからだ」と説明する。
今回の研究では、肺転移のあるメラノーマのマウスに、気管に挿入された小さなチューブを通してマイクロロボットを送達し、その効果を未治療のマウスとの比較で観察した。その結果、平均生存期間は、未治療のマウスでは27日であったのに対し、マイクロロボットによる治療を受けたマウスでは37日に延長していた。
Li氏は、「マイクロロボットの能動的な遊泳運動は、肺の深部組織へ薬剤を効率よく分布させると同時にその滞留時間を延長した。この分布範囲の向上と滞留時間の延長により、必要な薬物投与量を削減でき、副作用を軽減しながら高い生存効果を維持できる可能性がある」と述べている。
ただし研究グループは、この研究は予備的なものに過ぎないこと、また、動物実験での結果がヒトでもうまくいくとは限らないことを強調している。
研究グループは、ヒトを対象にした臨床試験に備えて、より大型の動物を用いた試験でマイクロロボットによる治療を試す予定であるとしている。
[2024年6月14日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら