感情認識・表現療法はCBTよりも慢性疼痛の軽減に効果的

提供元:HealthDay News

印刷ボタン

公開日:2024/07/09

 

 高齢者の慢性疼痛に対する治療法として、新しいタイプの心理療法が現行の標準的な治療法である認知行動療法(CBT)よりも効果的な可能性のあることが、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部精神医学・生物行動科学のBrandon Yarns氏らが実施したランダム化比較試験(RCT)で示された。米国の退役軍人を対象とした同試験では、CBTを受けた人と比べて感情認識・表現療法(EAET)と呼ばれる治療を受けた人では慢性疼痛が有意に軽減し、軽減効果がより長期にわたって持続したという。詳細は、「JAMA Network Open」に6月13日掲載された。

 Yarns氏らによると、CBTは、患者が痛みの引き金となるものを認識し、効果的な方法でそれに対処できるようにするためのエクササイズによって痛みに耐える能力を高める手助けをすることに重点を置いた治療法だ。

 一方、2010年代に開発されたEAETは、感情に焦点を当てた治療法という点でCBTとは異なる。EAETは、ストレスに関連した感情が脳による疼痛の知覚に強く影響しているとの考えに基づいた治療法だ。EAETを受ける患者は、ストレスフルな経験に意識を向けるよう促される。ストレスフルな経験には、運転中に他の車が前に割り込んできたといった日常的な出来事も、性的暴行や心的外傷などのより深刻な出来事も含まれる。その目的は、そのような感情を心と体の双方に体験させた上で立ち向かい、それらに対する自分の反応を表出し、最終的には解放することだとYarns氏は説明する。

 Yarns氏は、「傷ついたりストレスを感じたりすると、自然に感情的な反応が引き起こされるのものだ。その感情は、怒り、罪悪感、悲しみなどさまざまだ。これらの感情は痛みを伴うため、人はしばしばその感情から目を背けるが、EAETは患者が正直さとセルフコンパッション(自分への慈しみ)を持ちながら難しい感情に向き合うことを助ける」と言う。また、「セラピーで患者は、それまで抱えてきた怒りや痛み、罪悪感を解放することができ、最後にはセルフコンパッションが残る」と説明している。

 今回の臨床試験には、慢性疼痛を抱える60~95歳の退役軍人126人(平均年齢71.9歳、男性92%)が登録された。このうちの3分の2以上(69%)は精神疾患の診断歴を有し、また3分の1程度(37%)には心的外傷後ストレス障害(PTSD)があった。

 試験では、66人がCBTを受け、残る60人はEAETを受けた。その結果、CBTまたはEAETの治療終了時と6カ月後の時点で、CBT群と比べてEAET群では疼痛軽減の度合いがより大きいことが示された。治療終了時に臨床的に有意と考えられる30%以上の疼痛軽減を報告した対象者の割合は、EAET群で63%であったのに対し、CBT群ではわずか17%であった。また、治療から6カ月時点で疼痛の軽減が持続していた人の割合は、CBT群の14%に対してEAET群では41%とより高かった。さらにEAET群では、不安や抑うつ、PTSD、生活満足度の面でもより大きな改善効果を報告していたとYarns氏らは付け加えている。

 Yarns氏は、「慢性疼痛を抱える人のほとんどは、心理療法を受けることなど考えもしない。彼らが考えるのは、薬や注射、時には手術や理学療法のような身体的な治療法のことばかりだ」と話す。その上で同氏は、「心理療法は慢性疼痛に対するエビデンスに基づいた治療法の1つだが、今回の臨床試験から、心理療法のタイプも重要であることが分かった」とUCLAのニュースリリースの中で説明している。

 なお、今回の研究では、治療セッションは全て対面で行われた。Yarns氏は今後の研究課題として、バーチャルセッションでも同様の結果が得られるかどうかを検討することを挙げている。また、EAETとCBTを受けた患者の脳の変化を明らかにするため、脳画像研究も行う予定であるという。

[2024年6月14日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら