救急隊員がスマートフォン(以下、スマホ)のツールを使って患者の顔をスキャンすることで、数秒以内に脳卒中の有無を判定できる可能性のあることが、RMIT大学(オーストラリア)のGuilherme Camargo de Oliveira氏らの研究で示された。人工知能(AI)で駆動するこのツールは、顔の対称性と特定の筋肉の動きを分析し、脳卒中のわずかな兆候を検出することができるという。研究の詳細は、「Computer Methods and Programs in Biomedicine」6月号に掲載された。
脳卒中は、動脈の閉塞により脳への血流が止まったり、血管が破裂して脳内で出血したりすることで発症する。脳卒中の症状には、錯乱、身体の一部または全身の運動コントロールの喪失、言語障害、表情の消失などがある。
De Oliveira氏は、「脳卒中患者に認められる重要な特徴の1つとして、顔の筋肉の動きが通常は片側性となり、左右で異なる動きをすることが挙げられる」と言う。さらに同氏は、「われわれは、笑顔の非対称性に変化があるかどうかを検出できるAIツールと画像処理ツールを手に入れた。こうした非対称性を検出することは、患者の脳卒中を見つける鍵となる」と同大学のニュースリリースの中で付け加えている。
研究グループが、脳卒中を発症した14人の患者と11人の健康な人の動画を用いてこのAIツールの脳卒中検出能を検証したところ、82%の精度で脳卒中を検出できることが示された。この結果について、論文の上席著者でRMIT工学部教授のDinesh Kumar氏は、「われわれのスクリーニングツールは、救急隊員と比較しても遜色のない検出率を示した」と説明している。
Kumar氏は、「われわれは、患者が脳卒中を発症しているかどうかを救急隊員が瞬時に判断し、救急車が患者の自宅から出発する前に病院に情報提供することを可能にするシンプルなスマホのツールを開発した」と話す。ただし、このツールは病院で行われている診断目的の臨床検査の代わりにはならないことをde Oliveira氏らは強調している。それでも、症状から脳卒中発症の可能性を見極めることで、治療が必要な患者の特定につなげることができる可能性がある。
Kumar氏は、「これまでの研究から、救急外来や地域の病院で脳卒中の13%近くが見逃されている一方で、神経学的検査を受けた記録がない患者の65%が未診断の脳卒中を経験していることが示唆されている」と言う。また同氏は、「多くの場合、その兆候は極めて微妙なものだ。その上、ファーストレスポンダーが自分と同じ人種や性別ではない人、特に女性や有色人種の人に対応する場合には、脳卒中の兆候が見逃される可能性が高くなる」と付け加えている。
De Oliveira氏らは、次の段階として、このスマホのツールをアプリとして開発する予定だ。また、同氏らは表情に影響を与える他の脳の状態もこのアプリによって検出できるようにするため、医療従事者と連携していきたいとの意向も示している。Kumar氏は、「われわれは、感度と特異度を可能な限り高めたいと考えており、現在、さらなるデータを使い、脳卒中以外の疾患も考慮したAIツールの開発に向けて取り組んでいるところだ」と話している。
[2024年6月19日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら