試験紙を用いた簡便で安価な検査によりインフルエンザウイルス感染の有無を調べることができ、さらにその原因となったインフルエンザウイルスの種類まで特定できる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この検査により、A型とB型のインフルエンザウイルスを区別できるほか、A型インフルエンザウイルス亜型のH1N1やH3N2など、より毒性の強い株をも判別できるという。米プリンストン大学のCameron Myhrvold氏らによるこの研究の詳細は、「The Journal of Molecular Diagnostics」7月号に掲載された。
この検査法は、SHINE(Streamlined Highlighting of Infections to Navigate Epidemics)と呼ばれる、CRISPR-Cas技術を用いたウイルス検出法をベースにしたもの。SHINEは、CRISPR-Cas酵素を利用してサンプル中の特定のウイルスのRNA配列を識別する技術である。研究グループはまず、新型コロナウイルスを検出するために、その後、デルタ株とオミクロン株を区別するためにSHINEを利用した。
次いで研究グループは2022年から、時期を問わず環境中に循環している他のウイルス、特にインフルエンザウイルスの検出にこの技術を適用し始めた。その目的は、ウイルス検査を病院や高価な設備を持つ臨床検査室ではなく、臨床現場で行えるようにすることだった。こうして開発された新たな検査法は、異なるインフルエンザ株(A型とB型)、およびその亜型(H1N1とH3N2)を区別することができる。研究グループが、臨床サンプルを用いてこの検査法の性能を確かめたところ、RT-PCR検査による検査結果と100%の一致度を示したという。
論文の共著者の1人である米マサチューセッツ工科大学(MIT)ブロード研究所のJon Arizti-Sanz氏は、「患者に感染しているインフルエンザウイルスの株や亜型を区別できることは、治療だけでなく、公衆衛生政策にも影響を及ぼす」と述べている。
一方、論文の筆頭著者である米ハーバード大学医学大学院のYibin B. Zhang氏は、「高価な蛍光測定装置の代わりに試験紙読み取り装置を使うことは、臨床医療だけでなく、疫学的サーベイランスの目的においても大きな進歩だ」と述べている。
一般的な診断アプローチであるPCR検査は処理に時間を要する上に、訓練を受けた人員、特殊な機器、試薬を−80°Cで保存するための冷凍庫を必要とする。これに対し、SHINEは室温で実施可能であり、所要時間も約90分と短い。現在、この診断方法で必要となるのは、反応を促進するための安価な加熱ブロックのみだ。研究グループは、処理工程を簡素化して15分で結果を出せるようにすることを目指しているという。Myhrvold氏は、「最終的には、この検査が新型コロナウイルス感染症の検査に使われている迅速抗原検査と同じくらい簡便なものにしたいと思っている」と話している。
研究グループは目下、この検査を、ヒトに感染する恐れのある鳥インフルエンザウイルス株や豚インフルエンザウイルス株を追跡できるように改良しているところだと話している。
[2024年6月25日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら