困難に対処する能力の高い人ほど長生きする可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。50歳以上の1万人以上を対象にしたこの研究では、レジリエンス(精神的回復力)のレベルが最も高い人は最も低い人に比べて、今後10年以内に死亡するリスクが53%低いことが示されたという。中山大学公共衛生学院(中国)疫学分野のYiqiang Zhan氏らによるこの研究は、「BMJ Mental Health」に9月3日掲載された。
レジリエンスは、性別やホルモン、身体のストレス反応を制御する遺伝子など、さまざまな要因の影響を受ける動的で活発なプロセスであることが示唆されている。また、レジリエンスはライフサイクルのさまざまな時期にわたって進化し、変化すると考えられている。Zhan氏らは、「保護要因の観点からレジリエンスが議論されることが多いように、レジリエンスが備わっている人では、大きな混乱を引き起こす出来事に直面しても、相対的な安定を維持することができる」と説明する。
高齢者では、適切なコーピングスキル(ストレスに対処する能力)が、長期的な健康問題やそれに伴う障害の影響を軽減する助けになることがある。また、病気や外傷から身体的に回復する能力は、老化の遅延や死亡リスクの低下に関連していることが知られている。しかし、レジリエンスにも同様の効果があるのかどうかは明らかになっていない。
そこでZhan氏らは、50歳以上の人を対象とした米国の「健康と退職に関する研究(Health and Retirement Study;HRS)」のデータを用いて、レジリエンスとあらゆる原因による死亡(全死亡)との関連を検討した。HRSは1992年に開始された研究だが、本研究では、調査内容にレジリエンスが含められた2006年以降の2回分(2006〜2008年)の調査データが用いられた。調査参加者は、忍耐力、冷静さ、目的意識、自立心などの資質を測定する尺度により評価されたレジリエンスのスコアに応じて、最も低いQ1群から最も高いQ4群の4群に分類された。解析は、調査データが全てそろった1万569人(平均年齢66.95歳、女性59.84%)を対象に行われた。対象者の死亡については、2021年5月まで追跡された。
追跡期間中に確認された全死亡件数は3,489件だった。解析の結果、レジリエンスと全死亡はほぼ線形関係にあることが明らかになった。10年間の生存率は、Q1群で61.0%、Q2群で71.9%、Q3群で77.7%、Q4群で83.9%であった。到達年齢、性別、人種、BMIを調整した解析からは、Q4群ではQ1群に比べて全死亡リスクが53%有意に低いことが示された(ハザード比0.473、95%信頼区間0.428〜0.524、P<0.0001)。交絡因子に糖尿病や心臓病、がん、高血圧などの基礎疾患を含めて解析すると、この関連は弱まって46%の低下に、さらに喫煙状況や運動習慣、婚姻状況も含めた場合には38%の低下となった。
研究グループは、「この研究は、交絡因子を考慮した後でも、高齢者や退職者のレジリエンスと全死亡リスクとの間に統計学的に有意な関連を認めた点でユニークだ」と述べている。また、「得られた結果は、死亡リスクを軽減するためのレジリエンスの促進を目的とした介入の潜在的な有効性を明示するものだ」との見方を示している。
[2024年9月4日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら