使用した染毛剤の成分により視力低下を伴う網膜症を発症したフランス人女性の症例が、エドゥアール・エリオ病院(フランス)のNicolas Chirpaz氏らにより、「JAMA Ophthalmology」に9月12日報告された。網膜症の原因となった成分は芳香族アミンと呼ばれる化合物で、女性がこの成分を含まない染毛剤の使用に切り替えると、視覚機能は回復したという。
Chirpaz氏らは、「この症例はまれなケースかもしれないが、芳香族アミンの危険性に対する認識を広めることで、すぐにこの成分を含む染毛剤の使用を控えることを考える人も出てくるだろう。そうなれば、目は恒久的な損傷を受けずに済む」と述べている。
研究グループが報告書の中で指摘しているように、染毛剤と網膜症とが関連付けられたのは、今回が初めてではない。2022年には、芳香族アミン含有の染毛剤に曝露した3人の中年女性が網膜症を発症したことが報告されている。
今回の症例は、病歴のない61歳の女性に関するもの。この女性は、染毛剤で髪を染めた数日後に両目の視界が徐々にぼやけてきたため、医師の診察を受けたという。女性の使用した染毛剤は市販のもので、パラフェニレンジアミンと呼ばれる芳香族アミンを含有していた。
検査の結果、両目の後極部を中心に複数の漿液性網膜剥離が確認された。また、OCT(光干渉断層計)画像では、複数の漿液性網膜剥離と神経網膜のびまん性肥厚が認められた。網膜の黄斑部の中心に位置する中心窩での脈絡膜の厚さは250μmで、網膜色素上皮剥離や中心性漿液性脈絡網膜症と関連付けられている異常に拡張した脈絡膜血管は認められなかった。眼底自家蛍光検査では、漿液性網膜剥離が低蛍光領域として映し出された。
漿液性網膜剥離の原因を特定するために、血液検査や胸部CTスキャン、脳MRIなど広範な検査が行われたが、結果は全て正常であった。女性の症状が染毛剤の使用と時間的に一致することやOCT検査などの結果から、女性は染毛剤に関連する再発性急性血管障害(recurrent acute hair dye-associated angiopathy;RAHDAA)と診断された。
その後、女性は染毛剤のブランドを変えた。4カ月後の検査で、女性の視力は正常(20/20)に戻っていた。4年後の時点で、女性は芳香族アミンを含まない染毛剤を使用しており、RAHDAAの再発は生じていないという。
研究グループは、芳香族アミンが、網膜色素上皮細胞と呼ばれる細胞の健康に不可欠な神経化学経路を「破壊する」ことで、網膜症が引き起こされたのではないかと考えている。また、「RAHDAA症例は依然としてまれではあるが、患者に原因が容易に突き止められない網膜症が認められた場合には、医師はRAHDAAの可能性に注意する必要がある」と述べている。
[2024年9月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら