自転車通勤をしている人は糖尿病発症リスクが2割以上低いことが報告された。職域多施設研究(J-ECOHスタディ)の運動疫学サブスタディのデータを、帝京大学大学院公衆衛生学研究科の桑原恵介氏らが前向きに解析した結果であり、「Diabetes Care」にレターとして10月17日掲載された。
近年、環境保護や健康増進の観点から、自転車を利用した通勤への関心が高まっており、海外からは自転車通勤が糖尿病リスクを抑制する可能性を示す研究結果も報告されている。ただしアジア人での研究は行われていないことから、桑原氏らはJ-ECOHスタディのデータを用いてこの点を検討した。
J-ECOHスタディは、国立国際医療研究センターが主体となり、国内十数社の企業と共同で行っている疫学研究で、今回の研究は身体活動の詳細なデータがある1社での運動疫学サブスタディとして実施。2006年度に企業内健診を受診し、以後2017年度まで健診を受けていて、糖尿病発症の有無を把握し得た労働者3万1,678人(平均年齢44.0±9.8歳、男性84.9%)を解析対象とした。ベースライン時点で、糖尿病、心血管疾患、脳卒中、がんの既往のある人や、解析に必要なデータが欠落している人は除外されている。
健診時に主な通勤手段を質問し、自転車、徒歩、電車またはバス、車またはバイクの四者択一で回答を得て、自転車通勤だった群とその他の群に二分した上で、2017年度までの糖尿病発症リスクを比較した。解析に際しては、年齢や性別の影響を調整し、それら以外に、喫煙・飲酒習慣、睡眠時間、婚姻状況、役職、交代勤務の有無、高血圧、糖尿病の家族歴で調整した「モデル1」、余暇時間の身体活動、仕事中の身体活動、通勤中の歩行時間も調整因子に加えた「モデル2」、さらにBMIでも調整した「モデル3」という計4通りで検討。また、性別の解析、および年齢が30~64歳の2万9,121人でのサブグループ解析も行った。
自転車通勤をしていた群での糖尿病発症率は2万6,602人年中219人、その他の群では23万939人年中2,812人だった。年齢と性別のみの調整では、自転車通勤群の糖尿病発症ハザード比(HR)が0.77(95%信頼区間0.68~0.88)であり、その他の群に比べてリスクが有意に低く、全ての交絡因子を調整したモデル3でもHR0.78(同0.63~0.96)と、22%有意に低リスクであることが示された。
性別の解析では、男性はモデル2でHR0.78(0.62~0.98)と有意なリスク低下が示されたが、BMIを調整因子に加えたモデル3ではHR0.81(0.65~1.02)で非有意となった。女性に関しては、調整因子が年齢のみでもHR0.77(0.54~1.09)で非有意だった。一方、年齢30~64歳の群では、モデル3でHR0.78(0.63~0.97)と、全体解析と同様に22%のリスク低下が観察された。
著者らは、糖尿病発症リスクに影響を及ぼす食事摂取状況が調整されていないこと、解析対象が特定の業種の労働者に限られていることなどを本研究の限界点として挙げた上で、「自転車通勤が糖尿病リスクの低下と有意に関連していることが分かった。この研究結果は、アジア人の糖尿病予防における自転車通勤の重要性を示している」と述べている。なお、女性のみでの解析結果が非有意であった点に関しては、「サンプル数が少なかったことの影響ではないか」としている。
[2022年11月21日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら