残っている歯が少なく、食べ物をしっかりかめないことが、主観的健康観の低下と関連していることを示すデータが報告された。ただし、残っている歯が少なくても、食べ物をしっかりかめる状態になっていれば、主観的健康観は低下していないという。山形大学医学部歯科口腔・形成外科の石川恵生氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に12月5日掲載された。
主観的健康観(self-rated health;SRH)は、BMIや血液検査の値などとともに、生命予後のリスクと関連のある因子の一つとされている。これまでに、残っている歯の本数(残存歯数)が少ないほどSRHが低く、全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが高いといったデータが報告されてきている。ただし、それらは主に高齢者を対象とする研究からのエビデンスであり、中年期成人の残存歯数とSRHの関連はよく分かっていない。また、残存歯数が少なくても、義歯などで適切に治療されていればSRHは低下せず、反対に残存歯数が多くても状態が悪ければSRHが低下する可能性が考えられるが、そのような視点での研究もほとんど行われていない。
以上を背景として石川氏らは、山形県で行われている疫学研究「山形県コホート研究」のデータを用いた横断的な解析により、これらの点を検討した。同コホート研究の対象は、同県内の40歳以上の一般住民であり、今回の研究では2017~2021年に実施した郵送アンケート調査に回答した7,447人から、データ欠落のある人を除外した6,739人(男性33.9%)を解析対象とした。
SRHの評価方法は、「最近1カ月間の健康状態は?」という質問に対して、「極めて良好」~「悪い」の五者択一で選んでもらい判定した。統計解析に際しては、下位2項目(「普通」と「悪い」)を選択した人を「SRHが低下している」と定義した。
口の中の状態については、残存歯数を問う質問と(インプラントは残存歯数に入れずにカウント)、「自分の歯や入れ歯で、左右の奥歯をかみしめることができるか?」という質問に対して、「両方できる」、「片方だけでできる」、「どちらもできない」から三者択一で選んでもらい判定した。
このほかに、年齢、BMI、婚姻状況、疾患既往歴、メンタルヘルス状態に関する自己評価や、睡眠・喫煙・飲酒・運動習慣、地域社会活動への参加頻度なども把握。それらの指標とSRHとの関係について単変量解析を行い、有意性が示された指標を独立変数とする多変量解析を施行した。その結果、SRHの低下に独立した関連のある因子として、痩せ(BMI18.5未満)、運動頻度が少ないこと、抑うつ、睡眠時間(5時間未満または9~10時間)、がんの既往などとともに、以下に挙げる口の中の状態が抽出された。
残存歯数が20本以上あり「両方ともしっかり噛みしめられる」群を基準とすると、残存歯数が20本未満で「どちらもできない」という状態〔aOR1.952(95%信頼区間1.265~3.014)〕、および、残存歯数が20本未満で「片方だけでできる」という状態〔aOR1.422(同1.015~1.992)〕が、SRHの低下に独立して関連していた。その一方、残存歯数が20本未満であっても「両方できる」という状態は、単変量解析の時点でSRHの低下に関連する有意な因子でなく、多変量解析でも有意性は示されなかった〔aOR1.099(0.884~1.365)〕。
反対に、残存歯数が20本以上あっても、「片方だけでできる」という状態や、「どちらもできない」という状態は、多変量解析では有意ではないもののオッズ比が上昇する傾向を認め、また単変量解析ではSRHの低下と有意な関連が認められた(単変量解析のオッズ比はそれぞれ1.458、1.876)。
著者らは本研究の限界点として、口の中の状態を歯科検診ではなく自己報告に基づいて評価しており、治療状態も不明であること、調整されていない交絡因子が存在する可能性のあることなどを挙げている。その上で、「幅広い年齢層で実施された本研究から、良好なSRHの維持には、歯周病などのない健康な歯が20本以上あること、または残存歯数は20本未満であっても、きちんと歯科治療がなされていることが重要と考えられる」と結論をまとめている。
[2023年4月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら