脳梗塞急性期に尿酸値が大きく低下するほど、短期転帰が不良であることを表すデータが報告された。九州大学大学院医学研究院病態機能内科学の中村晋之氏、松尾龍氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に6月29日掲載された。この関連は交絡因子調整後にも有意であり、かつ年齢や性別、入院時の尿酸値、脳梗塞の重症度にかかわらず、一貫して認められるという。
高尿酸血症は脳梗塞を含む心血管疾患発症のリスクマーカーであることは明らかになっており、独立したリスクファクターである可能性も示唆されている。その一方で尿酸には強力な抗酸化作用があり、尿酸値高値と健康関連指標の一部が良好であることとの関連を示した報告も散見される。ただし、脳梗塞急性期の尿酸値の変動と予後との関連は、ほとんど研究されていない。中村氏、松尾氏らはこの点について、福岡県内の急性期病院7施設が参加している「福岡脳卒中データベース研究(Fukuoka Stroke Registry:FSR)」(研究代表者:北園孝成氏)のデータを解析して検討した。
2007年6月~2019年9月に脳梗塞発症後1週間以内に入院した患者1万5,569人から、発症以前に生活機能障害のあった患者、追跡期間が発症後3カ月未満の患者、入院中に尿酸値が入院初日を含め2回以上測定されていなかった患者などを除外し、4,621人(平均年齢70.1±12.2歳、男性64.4%)を解析対象とした。主要評価項目は、脳梗塞発症3カ月時点の転帰不良〔修正ランキンスケール(mRS)が3~6点〕と、機能的依存〔mRSが3~5点(転帰不良から死亡を除外)〕とし、副次的に入院中の神経学的改善〔米国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)が4点以上低下または退院時に0点〕、神経学的悪化(NIHSSが1点以上上昇)などを評価した。
入院時の尿酸値は、男性が平均6.01±1.61mg/dL、女性は5.11±1.65mg/dLであり、男性・女性ともに入院1~3日目、4~6日目、7~10日目に測定されていた値は、入院初日より有意に低値だった。入院中の尿酸値の低下幅(入院初日と入院期間中に記録された最低値)の四分位で4群に分けて比較すると、低下幅の大きい群ほど高齢で女性の割合が高く、BMIが低値であり腎機能(eGFR)が低く、再灌流量療法施行率が高くNIHSSスコアが高値であり、入院期間が長いという有意な傾向が認められた。
解析結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、BMI、eGFR、発症前mRSスコア、入院時尿酸値、NIHSSスコア、入院期間、喫煙・飲酒習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動の既往、脳梗塞病型(心原性/非心原性)、再灌流療法の施行など〕を統計学的に調整後、入院中の尿酸値の低下幅と主要評価項目との間に有意な関連が見られた。具体的には、尿酸値低下幅の第1四分位群を基準として第3四分位群は転帰不良のオッズ比(OR)が1.51(95%信頼区間1.16~1.96)、第4四分位群はOR2.66(2.05~3.44)であり、機能的依存については同順にOR1.48(1.13~1.95)、OR2.61(2.00~3.42)だった(ともに傾向性P<0.001)。
副次的評価項目の神経学的改善は入院中の尿酸値の低下幅が大きいほどオッズ比が低く、反対に神経学的悪化は尿酸値の低下幅が大きいほどオッズ比が高かった(ともに傾向性P<0.001)。
続いて、年齢(75歳未満/以上)、性別、脳梗塞病型、神経学的重症度(NIHSSスコア5点未満/以上)、慢性腎臓病の有無、入院時の尿酸値(男性は5.9mg/dL、女性は4.9mg/dLで二分)で層別化したサブグループ解析を実施。その結果、いずれの群においても、入院中の尿酸値の低下幅が大きいほど、転帰不良のオッズ比が高いという有意な傾向性が示された。
以上を基に著者らは、「脳梗塞急性期の尿酸値の低下は好ましくない短期転帰と独立して関連していることが明らかになった」と結論付けている。なお、「本研究が観察研究であるため因果関係は不明」と述べた上で、脳梗塞急性期に尿酸値が変化するメカニズムとしては、輸液などによる体液量の変化や栄養素摂取量の低下などの影響を考察として記している。また、尿酸値低下と転帰不良との関連のメカニズムに関しては、尿酸が酸化ストレス抑制を介して脳神経細胞や血管内皮細胞に対して保護的に働く可能性があり、その作用の減弱によるものではないかとしている。
[2023年9月25日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら