60歳以上の日本人を対象とした横断研究の結果、嚥下機能の低下が睡眠の質の低下と関連していることが明らかとなった。この関連は、男女ともに認められたという。広島大学大学院医系科学研究科の濵陽子氏らによる研究であり、「Heliyon」に5月31日掲載された。
睡眠維持困難(中途覚醒)は、慢性の痛み、消化器疾患、呼吸器疾患など、さまざまな身体的状態と関連する。例えば、睡眠中は呼吸と嚥下の連携が損なわれることがあり、覚醒時と比べて嚥下後の咳が発生しやすいが、このことも睡眠維持困難の一因とされる。加齢に伴い嚥下機能が低下すると、睡眠中の嚥下コントロールが困難となる可能性があるが、嚥下機能の低下が睡眠の質に及ぼす影響は明らかになっていない。
そこで著者らは、J-MICC Study 静岡研究と大幸研究の2012年2月~2015年3月の調査データを用いて、60歳以上の人を対象に、嚥下障害のリスクと睡眠の健康との関係を検討した。「地域高齢者誤嚥リスク評価指標(DRACE)」を用いて、合計スコア4点以上を嚥下障害のリスクありとした。また、「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」の合計スコア6点以上を睡眠の質が悪いと判定し、睡眠の持続時間、満足度、規則性などについても調査した。
解析対象者3,058人(男性1,633人、平均年齢66.5±4.2歳)のうち、嚥下障害のリスクがある人は28.0%、睡眠の質が悪い人は19.1%だった。嚥下障害のリスクがない人に比べ、リスクがある人は、睡眠の質が悪い人が多く(15.4%対28.5%)、平均睡眠時間が短く(6.74±0.88対6.62±0.99時間)、十分な睡眠のとれている人は少なく(61.7%対48.9%)、睡眠が不規則な人が多い(7.3%対13.7%)という傾向が認められた。
対象者の背景の差を調整後、嚥下機能と睡眠の関連を解析したところ、男性では、嚥下障害のリスクがあると、睡眠の質が悪いこと(オッズ比1.98、95%信頼区間1.38~2.83)、睡眠不満足(同1.69、1.29~2.20)、不規則な睡眠(同1.88、1.20~2.94)と有意に関連していることが明らかとなった。女性では、嚥下障害のリスクは睡眠の質が悪いこと(同1.39、1.00~1.92)、睡眠持続時間が6時間未満(同1.47、1.02~2.14)と有意に関連していた一方で、睡眠不満足、不規則な睡眠との関連は有意ではなかった。
また、嚥下障害のリスクとPSQI各項目の点数(0点または1~3点)との関連を検討したところ、男女とも、嚥下障害のリスクは睡眠の質、入眠時間、睡眠困難、日中覚醒困難と有意に関連していた。特に、日中覚醒困難については、男性(同2.10、1.62~2.71)、女性(同2.04、1.40~2.46)ともに関連が強かった。
研究の結論として著者らは、「日本の高齢者における嚥下障害のリスクは睡眠の質と関連していた。身体運動、口腔保健指導、栄養指導など、嚥下機能の維持に焦点を当てた戦略は、睡眠の質の改善に寄与する可能性がある」と述べている。また、睡眠維持困難の要因となり得る胃食道逆流症やドライマウスについては評価していないことなどに言及し、さらなる研究が必要だとしている。
[2024年8月26日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら