鍼灸の現状と問題(2) 保険外併用療養費の考察

提供元:MRIC by 医療ガバナンス学会

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公開日:2012/06/19

 

北海道鍼灸マッサージ柔整協同組合 理事 健保対策委員長
NPO法人 全国鍼灸マッサージ協会 理事 広報/渉外局 健保推進担当
渡邊 一哉

2012年6月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。

 鍼灸が現状の健康保険法の87条、療養費の枠組みで健保の支払いが償還払いになって久しい。昭和の30年代には日本鍼灸師会が健保の推進を掲げて運動している事からそれ以前、戦後マッカーサーが鍼灸禁止の発令をしようと、日本の医療者と論議になっているのが昭和25年前後と思われる事から、それから数年で健康保険を使っての鍼灸が始まってる事になる。

 現在の日本の鍼灸は医業行為とは呼ばれず、法的には医業類似行為と言われている。これに不服を感じ、医業になるべきだ、医療行為となぜ言われないのか?と鍼灸の業界団体もまた、ここ数年で相次いで設立された鍼灸系の大学などでも、盛んに研究が行われ、EBMの確立に躍起になっている。

 おそらく、数年の後にはある程度EBMの確立を生むかもしれない。それはそれで素晴らしい事だし、そうなる事を願ってはいる。鍼灸が病院内医療として行われ、それが患者さんに使われる事で、医療経済の側面からも薬剤や、リハビリテーションと並び、鍼灸は強力な武器にもなる可能性がある。

 製薬会社から妨害があるのではないか?とか、薬剤師会と対立するのではないか?と言うような声もあるにはあるが、だとしても医療の選択肢として患者さんが医師と話し合いの上で、もしくは患者の意思を尊重してとなるのであれば、それはそれで問題のある事だとは思えない。

 仮にEBMが確立をして医療に参入するとなるとどういう事が起こってしまうのか。病院内で行われる医療行為はすべて医師法に遵守した形で行われている。

1.医師法
第17条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
第18条 医師でなければ、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。

 このように医師に業務独占、名称独占を与えている。今の病院医療は、医師が業務独占があるために、他のメディカルスタッフはすべて医師の処方で業務をこなしている。しかも請求は保険給付である。現物給付と言われる給付の方法で請求は医師が行うのはご承知の通りである。

 あまり今のところ、鍼灸の医療参入に関してはせいぜい混合診療の問題が発生しているくらいのもので、鍼灸という業務としての問題を提起する方はいない。

 今の時点で鍼灸が健保を適応しているのは制度上は健康保険法の第87条の療養費の部分である。

(療養費)
第八十七条 保険者は、療養の給付若しくは入院時食事療養費、入院時生活療養費若しくは保険外併用療養費の支給(以下この項において「療養の給付等」という。)を行 うことが困難であると認めるとき、又は被保険者が保険医療機関等以外の病院、診療所、薬局その他の者から診療、薬剤の支給若しくは手当を受けた場合におい て、保険者がやむを得ないものと認めるときは、療養の給付等に代えて、療養費を支給することができる。

 この療養費の87条は療養の給付が困難であると認める時と条文上では書かれている。現在のこの条文に関しての運用は、厚労省から通知がでている。

 最新の厚労省の鍼灸に関しての疑義解釈資料(平成24年2月13日発布)によれば、療養の給付等が困難な場合とは慢性病であり、医師による適当な医療手段のないもので主として神経痛、五十肩、腰痛など他類焼疾患となっており、漫然と医療を受け続けても、治癒に至らないものとされている。

 この解釈を巡っては様々な論議があるが、今のところは医師の同意書が発行されれば、その条件に関してはあまり言わない保険者が大半を占める。一部、保険医療機関担当規則を持ち出してくる保険者もいるにはいるが、そもそも日本の行政は裁量行政であり、その場その場、時代時代に、条文を無理矢理都合を合わせて行く事が日本の行政であり、そうでないと時代が移行する度に、条文改正や、国会での論議という事になるのは大変な事で、それである程度、幅を持たせて解釈をしている。

 時に拡大し過ぎ、飛躍し過ぎという話もあるが、それをある程度調整をつけていくのが医療であれば厚労省の役割でもあろうと思う。

 話を戻すが、この療養費は、償還払いが原則で、現物給付は請求権は医師にあるのに対し、償還払いは被保険者請求である。

 それを代理請求して鍼灸師、もしくは第3者が行っている現状がある。これはこれで複雑で煩雑な書類を被保険者が行う手間を、慣れている者が行うことでガードが下がり国民の受療が進むというメリットはある。
 これがEBMが進み、医療になるとすると、医師以外は医療を行えないという医師法の原則からいくと鍼灸師は医師の処方下でないと鍼灸治療が行えなくなるという現実がある。あくまで条文を条文通りに行くとという事であるが。

 事、医師法に関しては、他の法律と違い、かなりコンプライアンスを守らなければいけないし、医師法は日本の医療に関しては統治している法律である。ここの医師以外で医療を行うという部分に鍼灸師が参入する事を医師はおろか、他の医療関連職種も黙っているわけには行かないだろうと思う。

 この問題は、くしくもEBMがある程度確立し、日本で鍼灸が認められ、病院内医療として行われ始めると同時に発生する。

 この問題をいったいどうしていくのがいいのか。日本の現存の開業鍼灸師は、病院内医療が始まるとどうなるのか?ここに解決の道はないのか。

 私案であるが、保険外併用療養費に鍼灸を選定療養としてでも入れる事で、病院内では保険外併用療養費として、病院外では健康保険法87条の療養費払いとして、支払う事が可能になるのであれば、病院医療と開業鍼灸師との共存が可能である。あくまで法律上ではあるが。

 保険外併用療養費に鍼灸が認められれば、混合診療問題も鍼灸に関しては除外される事になる。鍼灸が医療参入できないのはひとつには混合診療問題からだと言われている事からそれは問題回避する事ができる。

 現在の保険外併用療養費は下記になる。

●評価療養(7種類)
・先進医療(高度医療を含む)
・医薬品の治験に係る診療
・医療機器の治験に係る診療 ・薬事法承認後で保険収載前の医薬品の使用
・薬事法承認後で保険収載前の医療機器の使用
・適応外の医薬品の使用
・適応外の医療機器の使用

●選定療養(10種類)
・特別の療養環境(差額ベッド)
・歯科の金合金等
・金属床総義歯
・予約診療
・時間外診療
・大病院の初診
・小児う触の指導管理
・大病院の再診 ・180日以上の入院
・制限回数を超える医療行為

 この指定は厚労大臣が認定して行う事になっていて、そこに鍼灸が参入というのはもっとも今の法律を変えず、開業鍼灸師も打撃を大きくはうけず、病院医療で行う事からさらにEBMの確立に向けていけると思うし、国民のアクセスのしやすくなる。

 医療経済的にどうなのか?と問われれば、やってみないとわからない事が多く、予想としては薬剤やその他の医療と基本的には併用はできない仕組み作りにして行くと経済効果もあるとは思うのだが、厚労省側で、一部地域やもしくは時限的にとかで選定療養としてやってみないと医療経済的にはわからない。

 とりあえず、地域を限定してやってみるというのも方法である。その際、開業鍼灸師には、同意書の発行など医師が渋る事のないように便宜をはかる必要があり、あくまで、選択は患者さんが、国民にあるという姿勢で行く事が必要ではないかと思われる。料金的にも保険外併用療養費であれば、はり術きゅう術 電療合わせて1525円になり、開業鍼灸師であれば、その割合負担が患者さんの負担である。厚労省の裁量行政でなんとかなる話なのである。

MRIC by 医療ガバナンス学会