男性の発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)感染率は30%に及び、性交パートナー数が多いほど感染率が高く、かつウイルス消失率が低いことが、アメリカ・H Lee MoffittがんセンターのAnna R Giuliano氏らの検討で示された。HPVは男性の陰部疣贅やがんの原因となるが、男性におけるHPVの自然経過はほとんど知られていないという。HPVは男性から女性に感染することで女性の疾患リスクに大きな影響を及ぼし、男性の性行動は女性パートナーのHPV感染率や関連疾患にも影響することから、男性におけるHPV感染状況の解明が急がれている。Lancet誌2011年3月12日号(オンライン版2011年3月1日号)掲載の報告。
3ヵ国の男性のHPV感染状況を検討する前向きコホート試験
研究グループは、男性性器のHPV感染の発生状況を検討し、関連因子を評価する前向きコホート試験を実施した。
ブラジル、メキシコ、アメリカに居住するHIV陰性で、がんの既往歴がない18~70歳の男性を対象とし、フォローアップ期間中に6ヵ月ごとの検査が行われた。亀頭冠状溝、亀頭、陰茎、陰嚢から試料を採取し、HPV遺伝子型の評価を行った。
男性のHPVワクチン接種の費用効果モデル開発に有用な可能性
2005年7月~2009年9月までに4,299人(ブラジル:1,443人、メキシコ:1,429人、アメリカ:1,427人)が登録された。そのうち、2006年12月までに登録され少なくとも2週間以上のフォローアップを完遂した1,159人の男性(平均年齢32.1歳、フォローアップ期間中央値27.5ヵ月)について解析を行った。
発がん性および非発がん性を含むHPV感染率は50%(584/1,159人)であり、13種の発がん性HPVへの感染は30%(345/1,159人)に認められた。新規のHPV感染率は、1,000人・月当たり38.4(95%信頼区間:34.3~43.0)であった。
多変量解析を行ったところ、発がん性HPV感染率は、女性の性交パートナー数が0~1人の男性に比べ、10~49人の男性(ハザード比:2.18、95%信頼区間:1.53~3.12)および50人以上の男性(同:2.40、1.38~4.18)では2倍以上に達しており、有意な差が認められた。また、直近の3ヵ月間に男性の肛門性交パートナーがいなかった男性に比べ、3人以上のパートナーがいた男性では発がん性HPV感染率が有意に高かった(同:2.57、1.46~4.49)。
発がん性/非発がん性HPV感染者の感染期間中央値は7.52(同:6.80~8.61)ヵ月であり、HPV-16感染者では12.19(同:7.16~18.17)ヵ月であった。
発がん性HPVの消失率は、女性の性交パートナー数が0~1人の男性に比し50人以上の男性で有意に低く(ハザード比:0.49、95%信頼区間:0.31~0.76)、アメリカ在住の男性よりもブラジル在住男性(同:0.71、0.56~0.91)、メキシコ在住男性(同:0.73、0.57~0.94)は有意に低値を示した。また、発がん性HPVの消失速度は加齢に伴って迅速化した(同:1.02、1.01~1.03)。
著者は、「男性の性器HPV感染は3ヵ国のどの年齢層においても同様に高率であり、新規感染やウイルス消失はパートナーの性別にかかわらずその数と密接な関連を示した」とし、「これらのデータは、男性のHPVワクチン接種に関する現実的な費用効果モデルの開発に有用と考えられる」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)