大手術時に懸念される周術期心臓合併症を回避するために、ガイドラインで推奨されている術前心エコー検査について、住民ベースの後ろ向きコホート試験の結果、術後生存や入院期間を改善していないことが明らかにされた。カナダ・St Michael's HospitalのDuminda N Wijeysundera氏らが、40歳以上の中~高リスクの選択的非心臓手術患者を対象に行った試験で報告した。周術期心臓合併症は、選択的非心臓手術例の2%以上で発生、術後死亡の約3分の1を占めると報告されており、術前リスク層別化として心エコーが推奨されている。BMJ誌2011年7月23日号(オンライン版2011年6月30日号)掲載報告より。
わずかだが有意に、心エコー検査受診が術後死亡率を上昇
試験は、カナダ・オンタリオ市の急性期病院に関する医療データベース(入院料、医師報酬請求、人口動態統計、65歳以上処方などの各データ)を利用して行われた。
1999年4月1日~2008年3月31日の間に、中~高リスクの選択的非心臓手術を受けた40歳以上を被験者とし、術前6ヵ月間内に行われた安静時心エコー検査の記録を調べ、術後生存(30日時点と1年時点)、入院期間について評価した。評価に際して術後手術部位感染症例は、心エコー検査との関連が期待できないアウトカムとして除外された。
全コホート26万4,823患者のうち、心エコー検査を行っていた人は4万84例(15.1%)だった。
心エコー検査を受けたか受けなかったかの違いによる減少差をみるために行った、適合コホート(7万996例)との傾向スコア解析の結果、心エコー検査受診と30日死亡率上昇(相対リスク:1.14、95%信頼区間:1.02~1.27、P=0.02)および1年死亡率上昇(同:1.07、1.01~1.12、P=0.02)との関連が、それぞれわずかだが有意に認められた。入院平均期間延長との関連も有意だった(0.31日、95%信頼区間:0.17~0.44、P<0.001)が、術後手術部位感染症は有意ではなかった(相対リスク:1.03、95%信頼区間:0.98~1.06、P=0.18)。
ストレステストおよびリスク因子の有無で、死亡との関連が左右されることが明らかに
またサブグループ解析から、死亡との関連が、ストレステストの有無、心臓合併症のリスク因子の有無で左右されることが明らかにされた。ストレステスト受診者(相対リスク:1.01、0.92~1.11)と、ストレステスト未受診者でも高リスクを有する人(同:1.00、0.87~1.13)では死亡率上昇が認められなかった一方、ストレステスト未受診者で低リスク患者(同:1.44、1.14~1.82)、中間リスク患者(同:1.10、1.02~1.18)では死亡率上昇が認められた。
Wijeysundera氏は、「試験の結果、周術期アウトカム改善のための術前心エコー検査の有用性に疑いを投げかけるものとなったが、同時に、リスク階層化の精度を上げるためのさらなる研究、および心室機能障害に通じる周術期心臓合併症を減少させるための有効な介入法開発の必要性を強調するものである」と結論している。