セロトニン再取り込み阻害薬(SRI)抵抗性の、兵役に伴う心的外傷後ストレス障害(PTSD)が慢性的な退役軍人に対し、第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)リスペリドン(商品名:リスパダールほか)を投与しても、全般的症状やうつ症状などに改善は認められなかったことが報告された。米国・コネチカット州退役軍人ヘルスケアシステムのJohn H. Krystal氏らが、SRI抵抗性PTSDの300人弱の退役軍人について無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行い明らかにしたもので、JAMA誌2011年8月3日号で発表した。米国FDAがPTSD治療薬として認可しているのはSRIのみだが、SRIの有効性は女性よりも男性で、また急性PTSDよりも慢性PTSDでそれぞれ劣ることが知られ、退役軍人に対する臨床ではSRI抵抗性には第二世代抗精神病薬が一般に用いられるようになっているという。本試験は、その有効性をプラセボと比較検証した初の大規模試験。
247人を2群に分け6ヵ月追跡、全般的症状やうつ症状などを評価
研究グループは、2007年2月~2010年2月にかけて、23ヵ所の退役軍人向け外来診療センターで試験を行った。スクリーニングの結果、2種以上のSRI服用後もPTSD症状が持続する296人のうち、247人について試験を行った。
被験者を無作為に二群に分け、一方の群にはリスペリドン(1mgを就寝前1錠、1週間ごとに1錠増やし、1日3錠まで投与量増加、4週間目以降は4錠まで追加可)を、もう一方にはプラセボを投与し、6ヵ月間追跡した。
主要アウトカムは、PTSD臨床診断スケール(Clinician-Administered PTSD Scale;CAPS)や、モントゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)、ハミルトン不安評価尺度(HAMA)、臨床全般印象度(CGI)、退役軍人向けランド36項目健康に関する調査票(SF-36V)だった。
リスペリドン群に症状全般、うつ症状、不安症状、QOLの改善なし
その結果、試験開始後24週間の時点で、CAPSスコアの変化は、プラセボ群が-12.5(95%信頼区間:-15.7~-9.4)に対し、リスペリドン群は-16.3(同:-19.7~-12.9)と、両群で有意差はなかった(t=1.6、p=0.11)。混合モデル分析でも、治療開始後のいずれの時点でも、両群でCAPSスコアに有意差はなかった(p=0.12)。
うつ症状についても、リスペリドン群でプラセボ群に比べ有意な改善はみられず、MADRSの両群の平均値格差は1.19(p=0.11)だった。不安症状でも、HAMAや患者によるCGI、観察者によるCGIのいずれも、両群の平均値格差に有意差はなかった(それぞれ、p=0.09、p=0.14、p=0.04)。生活の質(QOL)についても、SF-36Vの結果で両群に有意差はなかった(p=0.79)。
一方で有害事象については、自己申告による体重増がプラセボ群2.3%に対しリスペリドン群15.3%、疲労感がプラセボ群0.0%に対しリスペリドン群13.7%、唾液分泌過多がプラセボ群0.8%に対しリスペリドン群9.9%と、いずれもリスペリドン群で高率に認められた。
(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)