急性虚血性脳卒中(脳梗塞)に対する血管内治療のアウトカムは、標準的な組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)の静脈内投与による血栓溶解療法を超えるものではないことが、イタリア・Niguarda Ca’Granda病院(ミラノ市)のAlfonso Ciccone氏らの検討で示された。虚血性脳卒中患者の障害脳動脈の再開通率は、血管内治療のほうが静脈内血栓溶解療法よりも高いことが知られている(>80% vs 46%)。一方、再開通が必ずしも良好な臨床アウトカムをもたらすとは限らず、これら2つの治療アプローチの臨床効果を直接比較した試験はこれまで行われていなかった。NEJM誌オンライン版2013年2月6日号掲載の報告で、同日、米国ホノルル市で開催された国際脳卒中学会(ISC)で同氏によって発表された。
血管内治療の有効性をプラグマチックな多施設共同試験で検証
SYNTHESIS Expansion試験は、虚血性脳卒中の治療において、血管内治療は標準的な全身性静脈内血栓溶解療法(t-PA静脈内投与)よりも良好なアウトカムをもたらすか否かを検証するプラグマチックな多施設共同試験。
対象は、年齢18~80歳、発症後4.5時間以内の急性虚血性脳卒中患者であり、頭蓋内出血がみられる場合は除外された。これらの患者が、血管内治療またはt-PAによる静脈内血栓溶解療法を行う群に無作為に割り付けられた。
血管内治療群は、マイクロカテーテルを用いたt-PA動注による血栓溶解療法[0.9mg/kg(最大90mg)、1時間]または機械的血栓除去術(術式の選択は術者の裁量に任された)、もしくはこれらの併用治療が行われた。静脈内血栓溶解療法群では、t-PA 0.9mg/kg(最大90mg)を1時間かけて静脈内投与した。
3ヵ月後の無障害生存率:30.4% vs 34.8%
2008年2月1日~2012年4月16日までに362例が登録され、血管内治療群に181例(平均年齢66歳、男性59%)が、静脈内血栓溶解療法群にも181例(同:67歳、57%)が割り付けられた。発症から治療開始までの期間中央値は血管内治療群が3.75時間、静脈内血栓溶解療法群は2.75時間であった(p<0.001)。
主要評価項目である3ヵ月後のmodified Rankinスコア(mRS)0(無症状)および1(症状はみられるが臨床的に有意な障害はなし)で定義された無障害生存率(disability-free survival)は、血管内治療群が30.4%(55/181例)、静脈内血栓溶解療法群は34.8%(63/181例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(調整済みオッズ比:0.71、95%信頼区間:0.44~1.14、p=0.16)。
7日以内の致死的または非致死的な症候性頭蓋内出血の発生率は両群とも6%ずつであり、他の重篤な有害事象の発生率や致命率にも有意な差はなかった。
著者は、「急性虚血性脳卒中に対する血管内治療のアウトカムは、標準的なt-PA静脈内投与よりも良好とのエビデンスは得られなかった」と結論し、「血管内治療は再開通率が高いため多くの患者に対し有効との印象を与えるが、ほぼ半数の患者には臨床的ベネフィットをもたらさないとの報告がある。今回のわれわれの知見では、t-PA静脈内血栓溶解療法よりも侵襲性が高く、高価な血管内治療は支持されない」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)