カルシウムの過剰摂取は女性の全死因死亡や心血管死のリスクを増大させる可能性があることが、スウェーデン・ウプサラ大学のKarl Michaelsson氏らの調査で示唆された。ごく一般的な摂取量(600~1,400mg/日)であれば問題はなさそうだという。カルシウムの摂取不足により高齢者の骨折率が上昇し、脳卒中や致死的な虚血性心疾患のリスクが増大する。一方、無作為化試験のメタ解析ではカルシウム補助食品の使用により虚血性心疾患や脳卒中のリスクが増大し、観察試験では全死因死亡や心血管死の低下とともに心血管疾患の発症増加が確認されている。BMJ誌オンライン版2013年2月13日号掲載の報告。
カルシウム摂取量と死亡との関連を前向きコホート試験で評価
研究グループは、食事や補助食品による長期的なカルシウム摂取と、全死因死亡や疾患特異的死亡の関連をプロスペクティブに検討する縦断的コホート試験を行った。
対象は、1987~1990年にマンモグラフィ検診を受けたスウェーデン人女性6万1,433人(1914~48年生まれ)で、中央値で19年のフォローアップが行われた。この間の全死因死亡数は1万1,944件(17%)で、心血管死は3,862件、虚血性心疾患死は1,932件、脳卒中死は1,100件だった。
ベースライン時(6万1,433人)と1997年(3万8,984人)に食事に関する調査を行い、カルシウムの摂取状況を推定した。総カルシウム摂取量は食事と補助食品に含まれる総量とし、1日摂取量で4群(<600mg、600~999mg、1,000~1,399mg、≧1,400mg)に分けて解析を行った。
食事由来摂取量が多く、かつ錠剤の使用者で死亡リスクが高い
<600mg/日群が2,058人(3.3%、登録時の平均年齢54.9歳、平均BMI 24.9kg/m
2)、600~999mg/日群が3万8,388人(62.5%、53.9歳、24.7kg/m
2)、1,000~1,399mg/日群が1万9,746人(32.1%、53.3歳、24.8kg/m
2)、≧1,400mg/日群は1,241人(2.0%、53.6歳、24.3kg/m
2)であった。
食事由来のカルシウム量に基づく解析では、600~999mg/日群を基準とすると、全死因死亡の調整ハザード比(HR)は、<600mg/日群が1.38[95%信頼区間(CI):1.27~1.51]、1,000~1,399mg/日群が1.00(同:0.96~1.04)、≧1,400mg/日群は1.40(同:1.17~1.67)であり、低摂取群と高摂取群で有意に死亡リスクが高かった(U字カーブ)。
同様に、心血管死の調整HR[<600mg/日群:1.63(95%CI:1.42~1.87)、1,000~1,399mg/日群:1.01(同:0.94~1.09)、≧1,400mg/日群:1.49(1.09~2.02)]および虚血性心疾患死の調整HR[1.65(1.36~2.01)、1.03(0.93~1.15)、2.14(1.48~3.09)]も、低摂取群と高摂取群で有意に死亡リスクが高値を示した。一方、脳卒中死では、高摂取群の死亡リスクは低かった[1.50(1.14~1.97)、1.02(0.89~1.17)、0.73(0.33~1.65)]。
総カルシウム摂取量に基づく解析でも、食事由来摂取量の場合と同様の死亡リスクの傾向がみられたが、リスクの増大は主に補助食品由来のカルシウムに起因していた。周辺構造モデルなどを用いて感度分析を行ったところ、食事由来カルシウムの低摂取群(<600mg/日群)や、総カルシウムの低摂取群と高摂取群の高い死亡リスクは有意ではなくなった。
カルシウムの錠剤(500mg/錠含有)の使用者が6%おり、平均的には全死因死亡や疾患特異的死亡との関連はみられなかったものの、食事由来のカルシウム摂取量が≧1,400mg/日の錠剤使用者では全死因死亡のHRが2.57(95%CI:1.19~5.55)と有意に高かった。
著者は、「カルシウムの摂りすぎは全死因死亡や心血管死のリスクを増大させる可能性が示唆されたが、ごく一般的な摂取量である600~1,400mg/日では死亡リスクへの影響はなかった。低摂取群(<600mg/日群)の死亡リスクの上昇は、時間依存性の交絡因子によるバイアスの影響が考えられる」と結論している。
(菅野守:医学ライター)