臨床的に静脈血栓塞栓症(肺塞栓症、深部静脈血栓症)の疑いが高くない50歳以上の患者に対するDダイマー検査のカットオフ値として、従来の基準値に代えて年齢調整値を用いると、高い感度を維持したまま特異度が改善され、高精度に本症の除外診断が可能になることが、オランダ・ユトレヒト大学病院のHenrike J Schouten氏らの検討で示された。Dダイマーは血栓形成に対し高い感度を示すため、臨床的に静脈血栓塞栓症の可能性が高くない患者における本症の除外診断に有用とされるが、可能性が高い患者では本検査の結果にかかわらず画像検査を要する。一方、Dダイマーは加齢にともなって上昇するため、高齢患者の診断に従来のカットオフ値を用いると偽陽性率が上がり、特異度が低下することから、新たなカットオフ値として年齢調整値の導入が進められている。BMJ誌オンライン版2013年5月3日号掲載の報告。
Dダイマー検査カットオフ値の診断精度をメタ解析で評価
研究グループは、静脈血栓塞栓症が疑われる50歳以上の患者におけるDダイマー検査カットオフ値の診断精度の評価を目的に、系統的なレビューとメタ解析を行った。
対象は、静脈血栓塞栓症が疑われる高齢患者に対し、従来の基準値(500μg/L)と年齢調整値(年齢×10μg/L)の双方のカットオフ値を用いたDダイマー検査および標準的検査を行った試験とした。データベースを検索して2012年6月21日までに発表された論文を選定し、筆頭著者と連絡を取った。
臨床的に静脈血栓塞栓症の可能性が高くない患者について、2×2分割表を作成し、年齢層、Dダイマー検査カットオフ値別の層別解析を行った。
Dダイマー検査に年齢調整カットオフ値を適用することで特異度が実質的に上昇
5つの後ろ向き試験の13のコホート(肺塞栓症7コホート、深部静脈血栓症6コホート)に含まれた1万2,497例がメタ解析の対象となった。
従来のカットオフ値の特異度は、年齢が上がるに従って低下した。すなわち、51~60歳が57.6%、61~70歳が39.4%、71~80歳が24.5%、>80歳は14.7%であった。年齢調整カットオフ値の特異度は全年齢層で従来のカットオフ値よりも高値を示し、それぞれ62.3%、49.5%、44.2%、35.2%だった。
従来のカットオフ値の感度は、51~60歳が100%、61~70歳が99.0%、71~80歳が98.7%、>80歳は99.6%であったのに対し、年齢調整カットオフ値ではそれぞれ99.4%、97.3%、97.3%、97.0%であり、大きな変化はなく良好であった。
著者は、「Dダイマー検査に年齢調整カットオフ値を適用することで、感度にはほとんど影響を及ぼさずに特異度が実質的に上昇し、これによって50歳以上の臨床的に静脈血栓塞栓症の疑いが低い患者に対する本検査の臨床的有用性が改善された」と結論し、「メタ解析の対象はすべて後ろ向き試験であり、日常診療への導入には、今後、費用効果の検討や有効性に関する前向きの試験を行う必要がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)