プライマリ・ケアにおいて、レンサ球菌感染を予測する臨床スコアに基づく抗菌薬処方は、症状のコントロールを改善し抗菌薬の使用を減少させることが、英国・サウサンプトン大学のPaul Little氏らが実施したPRISM試験で示された。プライマリ・ケアでは、急性咽頭炎患者のほとんどに抗菌薬が処方されている。抗菌薬使用の可否や薬剤の選定には、迅速抗原検査や臨床スコアが使用されることが多いが、これを支持する強固なエビデンスはこれまでなかったという。BMJ誌オンライン版2013年10月10日号掲載の報告。
臨床スコア、迅速抗原検査の有効性を無作為化試験で評価
PRISM(primary care streptococcal management)試験は、プライマリ・ケアにおけるレンサ球菌感染症の臨床スコアおよび迅速抗原検査に基づく抗菌薬処方の有効性を待機的抗菌薬処方と比較する無作為化対照比較試験。3歳以上の急性咽頭炎(発症後2週間以内)および咽頭の肉眼的異常(紅斑、膿)がみられる患者を対象とした。
被験者は、以下の3群に無作為に割り付けられた。(1)待機的抗菌薬処方(対照群):処方薬を用意して保管し、患者には症状が安定しなかったり、かなり悪化した場合には、3~5日後に受け取るよう指示する、(2)レンサ球菌感染症を予測するよう設計された臨床スコア:0/1点の患者には抗菌薬を処方せず、≧4点にはただちに処方し、2/3点には待機的抗菌薬処方を行う、(3)臨床スコアに基づく迅速抗体検査:臨床スコアが0/1点の患者には抗菌薬の処方や迅速抗体検査は行わず、2点には待機的抗菌薬処方を行い、≧3点には迅速抗体検査を行って陰性の場合、抗菌薬は処方しない。
主要評価項目は、リッカート尺度(0~6の7点法による診察後2~4日の咽頭炎/嚥下困難の平均重症度)を用いた患者の自己申告による症状の重症度とし、症状発現の期間や抗菌薬の使用状況の評価も行った。
合併症や再診率の増加はない
2008年10月~2011年4月までに、英国の21のプライマリ・ケア施設から631例が登録され、対照群に207例(平均年齢29歳、女性67%、受診時の罹病期間4.9日)、臨床スコア群に211例(31歳、60%、4.5日)、臨床スコア+迅速抗体検査群には213例(29歳、65%、5.0日)が割り付けられた。症状の重症度のデータは、502例(80%)から得られた(各群168例、168例、166例)。
受診後2~4日の咽頭炎/嚥下困難の平均スコアは、対照群に比べ臨床スコア群で有意に低下し(補正後Likertスコアの平均差:-0.33、95%信頼区間[CI]:-0.64~-0.02、p=0.04)、迅速抗体検査+臨床スコア群でもほぼ同等の効果が得られた(-0.30、-0.61~0.004、p=0.05)。
対照群では、「やや悪い症状または症状の増悪」の持続期間(中央値)は5日間であった。対照群に比べ、臨床スコア群ではこれらの症状がより速やかに改善した(ハザード比[HR]:1.30、95%CI:1.03~1.63、p=0.03)が、迅速抗体検査+臨床スコア群では有意差は認めなかった(1.11、0.88~1.40、p=0.37)。
対照群の抗菌薬使用率は46%(75/164例)であった。これに対し、臨床スコア群の使用率は37%(60/161例)、迅速抗体検査+臨床スコア群は35%(58/164例)であり、それぞれ29%(補正リスク比:0.71、95%CI:0.50~0.95、p=0.02)、27%(0.73、0.52~0.98、p=0.03)の有意な低下が認められた。
合併症(中耳炎、副鼻腔炎、化膿性扁桃腺炎、蜂巣炎)の発症率や、咽頭炎による再診率は3群間に差はなかった。
著者は、「急性咽頭炎に対する、臨床スコアを用いた抗菌薬処方により、症状のコントロールが改善され、抗菌薬使用が低下した。臨床スコアに基づく迅速抗体検査も同等のベネフィットをもたらしたが、臨床スコア単独を超える明確なベネフィットは確認できなかった」とまとめ、「2つの検査は共に臨床スコアを用いるため、電話トリアージに妥当かは不明である」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)