心室細動(VF)有無を問わない病院搬送中の心停止蘇生後患者への低体温治療施行の有効性について、病院到着までに深部体温を低下し34℃に到達するまでの時間を短縮したが、生存または神経学的アウトカムは改善しなかったことが示された。米国・ワシントン大学のFrancis Kim氏らが、1,359例を対象とした無作為化試験の結果、報告した。心停止後の脳外傷は後遺症や死亡と関連し覚醒しない患者も多い。低体温治療は脳機能回復に有望な治療とされ、現在、VFあり蘇生後の昏睡状態の患者に対する入院ベースの導入は推奨されているが、プレホスピタルでの最適な導入のタイミングは不確かであった。JAMA誌オンライン版2013年11月17日号掲載の報告より。
VFあり・なし1,359例を、低体温治療を行う介入群と標準的ケアの対照群に無作為化
研究グループは、プレホスピタルでの低体温治療が、VF有無それぞれの患者で蘇生後のアウトカムを改善するかどうかを検討する無作為化試験を行った。ワシントン州キング郡で2007年12月15日~2012年12月7日に、院外心停止が起き救急隊員による蘇生術を受けた成人1,359例(VFあり583例、VFなし776例)が無作為化を受けた。
低体温治療を受けるよう割り付けられた介入群には、標準的ケアと自己心拍再開後できるだけ速やかに2~4℃の標準生理食塩水の静脈内投与を行った。介入群には、VFあり群は292例(対照群291例)、VFなし群は396例(対照群380例)が割り付けられた。なお、それら割り付けとは関係なく、ほぼ全員が搬送先の病院で低体温治療を受けた。
患者は2013年5月1日までフォローアップを受けた。主要アウトカムは、退院時の生存率および神経学的状態であった。
退院時の生存率、神経学的状態の改善について有意差みられず
結果、介入群は平均深部体温が病院到着時までに、VFあり群(1.20℃低下、95%信頼区間[CI]:-1.33~-1.07℃)、VFなし群(1.30℃低下、-1.40~-1.20℃)ともに低下した。また、対照群と比較して約1時間、体温34℃以下に到達する時間を短縮した。
しかし、退院時の生存率は介入群と対照群で同等であった。VFあり群では、介入群62.7%(95%CI:57.0~68.0%)、対照群64.3%(同:58.6~69.5%)であり(p=0.69)、VFなし群ではそれぞれ19.2%(同:15.6~23.4%)、16.3%(同:12.9~20.4%)であった(p=0.30)。
また、介入は、退院時の神経学的状態(完全回復あるいは軽度機能障害)の改善と関連していなかった。改善した人の割合は、VFあり群では、介入群57.5%(95%CI:51.8~63.1%)、対照群61.9%(同:56.2~67.2%)であり(p=0.69)、VFなし群では、介入群14.4%(同:11.3~18.2%)、対照群13.4%(同:10.4~17.2%)であった(p=0.30)。
全体として、介入群は対照群よりも再度心停止となった割合が有意に高く(26%対21%、p=0.008)、また入院後12時間までの利尿薬の使用率および初回X線での肺水腫の有病率が高かった。それらは入院後24時間以内に回復していた。
以上の結果を踏まえて著者は、「低体温療法は心停止後の脳機能回復に有望な治療戦略ではあるが、今回の結果は、臨床アウトカムを改善するためにプレホスピタルでの低体温療法をルーチンに行うことを支持しないものであった」と結論している。
(武藤まき:医療ライター)