新たに開発された抗アミロイドβ(Aβ)抗体ソラネズマブは、軽度~中等度アルツハイマー病(AD)患者の認知機能および機能的運動能力を改善しないことが、米国・ベイラー医科大学のRachelle S Doody氏らが行ったEXPEDITION 1およびEXPEDITION 2試験で示された。ソラネズマブはネズミ抗体のヒト化アナログ製剤で、Aβの中枢神経(CNS)から末梢循環への流出を促進することから、ADに有効な可能性が示唆されていた。NEJM誌2014年1月23日号掲載の報告。
認知機能、身体機能の改善効果を2つの無作為化試験で評価
EXPEDITION 1およびEXPEDITION 2試験は、軽度~中等度AD患者に対するソラネズマブの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験。年齢55歳以上、うつ状態を認めず、軽度の認知機能障害がみられる患者を対象とした。ソラネズマブ(400mg、静脈内投与)は、4週ごとに18ヵ月投与し、コリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンの併用は許容された。
主要評価項目は、アルツハイマー病評価スケールの認知機能評価11項目(ADAS-cog11、0~70点、点数が高いほど認知機能が良好)およびアルツハイマー病共同研究日常生活動作評価(ADCS-ADL、0~78点、点数が低いほど身体機能が低い)の、ベースライン時から80週までのスコアの変化とした。
EXPEDITION 1試験の解析が終了後、EXPEDITION 2試験の主要評価項目として軽度AD患者におけるADAS認知機能評価14項目(ADAS-cog14、0~90点)の再解析を行った。
発症前~軽度患者に限定してさらなる検討を
EXPEDITION 1試験には1,012例(ソラネズマブ群506例、プラセボ群506例)、EXPEDITION 2試験には1,040例(521例、519例)が登録された。治療完遂率は、それぞれ73.1%、73.1%、77.9%、77.1%で、主な治療中止理由は有害事象であった。
両試験共に、主要評価項目の有意な改善効果は得られなかった。EXPEDITION 1試験におけるADAS-cog11スコアの変化の差(ソラネズマブ群-プラセボ群)は、-0.8点(95%信頼区間[CI]:-2.1~0.5、p=0.24)、ADCS-ADLスコアの差は-0.4点(同:-2.3~1.4、p=0.64)であり、EXPEDITION 2試験ではそれぞれ-1.3点(95%CI:-2.5~0.3、p=0.06)、1.6点(同:-0.2~3.3、p=0.08)であった。
ADAS-cog14スコアの群間差は、軽度AD患者が-1.7点(95%CI:-3.5~0.1、p=0.06)であり、ソラネズマブ群で良好な傾向がみられたが、中等度AD患者は-1.5点(95%CI:-4.1~1.1、p=0.26)だった。
両試験の安全性データの統合解析では、アミロイド関連画像異常として浮腫がソラネズマブ群の0.9%、プラセボ群の0.4%(p=0.27)にみられ、出血がそれぞれ4.9%、5.6%(p=0.49)に認められた。
著者は、「ソラネズマブは軽度~中等度AD患者の認知機能および機能的運動能力を改善しなかった」とし、「抗アミロイド戦略の有用性を見極めるために、軽度AD患者やバイオマーカー検査で脳のアミロイド蓄積が確認されている無症状の患者を対象に、本薬剤のさらなる検討を進める必要がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)