大腸がんスクリーニングの実施を年齢ベースで推進することは適切ではないことを、米国・退役軍人(VA)アナーバーヘルスケアシステムのSameer D Saini氏らが、後ろ向きコホート研究の結果、報告した。米国で最大の統合ヘルスケアシステムのVAヘルスケアシステム加入者を対象に行った検討において、75歳以降では実施が顕著に低下しており、75歳で健康に問題がある人では過剰に、76歳で健康な人では過小に行われているなどの状況が示されたという。現在、同システムでは50~75歳でのスクリーニング実施が推奨されており、全米、英国でも同様に広く行われている。しかし、今回の結果を踏まえてSaini氏は、単に年齢ではなく、もっと個々人の臨床的なリスク・ベネフィットに着目した質的指標を開発すべきであると述べている。BMJ誌オンライン版2014年2月26日号掲載の報告より。
one size fits allの指標=年齢による推奨が、治療に影響を与えるかを検討
研究グループは本検討において、個別リスクやベネフィットを考慮しない万能型(one size fits all)指標を用いた質的評価が、適切治療または不適切治療の両者に影響を与えるかを調べることを目的とした。具体的に、VAヘルスケアシステムの加入者を対象に、大腸がんスクリーニングに関する質的評価の上限年齢が、過剰または過小なスクリーニング実施と関連しているかを対象者の健康状態を踏まえて評価した。
分析は、2010年度に1回以上プライマリ・ケアを受診した、大腸がんスクリーニングの推奨対象年齢である50歳以上の退役軍人で、前年に便潜血検査を受けていない人、過去5年間でS状結腸鏡検査を受けていない人、過去10年間で内視鏡検査を受けていない人を適格とした。また、定期受診者にフォーカスを当てることを目的に、2010年以前の12~24ヵ月に便潜血検査を受けたが陰性だった人も適格とした。
対象について、受診から24ヵ月以内に内視鏡検査、S状結腸鏡検査、便潜血検査が行われているかを調べた。
推奨年齢上限を超えると受検率が約3分の1に
結果、包含/除外基準を満たした39万9,067例(平均年齢67歳、男性97%)のうち、プライマリ・ケア受診から24ヵ月以内に検査が行われていた人は38%いた。
多変量ログ二項回帰分析(Charlson併存疾患指数、性別、プライマリ・ケア受診回数で補正)の結果、スクリーニングは質的評価の上限年齢である75歳以降は、顕著に減少していた(補正後相対リスク:0.35、95%信頼区間[CI]:0.30~0.40)。
一方、75歳で健康に問題があった(余命が限られている可能性、およびスクリーニングがより負荷や有害性をもたらすと思われた)人のほうが、76歳で健康であった人よりもスクリーニングを有意に多く受けていた(補正前相対リスク:1.64、95%CI:1.36~1.97)。
著者は、「本検討により、質的評価の基準は、臨床治療に重要な影響をもたらすことが示された」と述べ、「患者が、それを受けることで年齢に関係なくベネフィットが得られるように、また害を受けそうな患者が不要で高コストの治療を免れることができるように、質的指標は、もっと個人のリスク・ベネフィットに焦点を当てたものでなければならない」とまとめている。
(武藤まき:医療ライター)