抗リン脂質抗体症候群(APS)の血管病変の形成には、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体(mTORC)の分子経路が関与している可能性があることが、フランス国立保健医学研究機構(INSERM)、パリ・デカルト大学(第5大学)のGuillaume Canaud氏らの検討で示された。APSの主な特徴は血栓症とされるが、慢性血管病変もよくみられ、とくに生命に関わる合併症を有する患者で頻度が高く、移植を要する患者では再発病変が高頻度にみられるという。APSの血管障害に関与する分子経路は知られておらず、適切な治療法は確立されていない。NEJM誌2014年7月24日号掲載の報告。
mTORC経路への関与を臨床研究とin vitro実験で検証
研究グループは、原発性および続発性のAPS腎症患者の血管において、二重免疫染色を用いてmTORC経路の活性化および細胞増殖の機序の検討を行った。また、劇症型APS患者の剖検標本も評価した。
in vitroにおいて、mTORC経路に関与する分子経路を検証し、阻害薬の薬理学的な検討も行った。また、腎移植術を受けたAPS患者におけるシロリムスの作用を検証した。
対象は、APSと診断され生検で腎症が確認された患者(APS群12例)、全身性エリテマトーデス(SLE)に合併する腎炎がみられる患者(SLE群45例、このうちAPSを伴う患者[続発性APS]が20例、非APS患者は25例)、がんによる摘出腎由来の正常腎組織標本(対照群10例)の4群に分けられた。
対象となった腎移植患者は111例で、このうち74例には抗リン脂質抗体がみられず、抗体を有する患者は37例であった。後者のうち、10例にシロリムスが投与され、27例には投与されていなかった。
PI3K-AKT経路で活性化、mTOR阻害薬投与例で12年生着率良好
APS腎症患者の増殖性の腎内血管の内皮において、mTORC経路の活性化を示す徴候が確認された。培養された血管内皮細胞において、APS患者由来のIgG抗体はホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)–AKTの経路を介してmTORCを刺激していた。
APS腎症のため移植を要し、シロリムスの投与を受けている患者では、血管病変の再発は認めなかった。また、これらのシロリムス投与例は、抗リン脂質抗体を有するがシロリムス投与を受けていない患者に比べ、生検標本における血管増殖が少なかった。
腎移植後144ヵ月の時点で、シロリムス投与患者10例のうち7例(70%)で移植腎が機能していたが、非投与患者27例では3例(11%)のみであった。劇症型APS患者の剖検標本の血管でもmTORCの活性化が確認された。
著者は、「APS関連血管病変にはmTORC経路の関与が示唆される」とし、「APS腎症患者の血管でmTORCが高度に活性化しているという事実は、腎臓の病態生理におけるmTORC機能の多面的(pleiotropic)作用を示唆する」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)