ベーチェット症候群の特徴的な病変である口腔潰瘍の治療に、アプレミラスト(apremilast、国内未承認)が有効であることが、トルコ・イスタンブール大学のGulen Hatemi氏らの検討で明らかとなった。ベーチェット症候群の他の粘膜病変には、陰部潰瘍や丘疹膿疱性、結節性の病変などがあるが、再発を繰り返す口腔潰瘍は身体機能を損ない、QOLに多大な影響を及ぼす。従来薬の効果は十分ではないため新規薬剤の開発が求められており、口腔潰瘍に有効な薬剤は他の病変への効果も有する可能性が示唆されている。アプレミラストはホスホジエステラーゼ4を特異的に阻害する低分子量の経口薬で、とくに免疫細胞内のサイクリックAMPを上昇させることでさまざまな炎症経路に作用するという。NEJM誌2015年4月16日号掲載の報告。
口腔潰瘍の抑制効果を検討する無作為化第II相試験
研究グループは、ベーチェット症候群の口腔潰瘍に対するアプレミラストの有効性と安全性の評価を目的に、二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験を実施した(Celgene社の助成による)。対象は、国際ベーチェット病研究グループの診断基準を満たし、年齢18歳以上、口腔に2ヵ所以上の潰瘍を有する患者であった。
被験者は、アプレミラスト30mgを1日2回投与する群またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、12週の治療が行われた。引き続き、プラセボ群をアプレミラストに切り替え、両群ともさらに12週の延長治療を行った。その後28日間、経過を観察した。
主要評価項目は12週時の口腔潰瘍の数とし、副次的評価項目は口腔潰瘍による痛み(100mm視覚アナログスケール[VAS]で評価、スコアが高いほど痛みが強い)、陰部潰瘍数、疾患活動性、QOLなどであった。
2009年10月~2011年10月の間に111例が登録され、アプレミラスト群に55例(年齢中央値34.0歳、女性71%、罹病期間中央値4.44年、平均口腔潰瘍数3.2±2.0ヵ所、VASスコア 54.3±26.2点)、プラセボ群には56例(34.0歳、68%、2.97年、3.1±1.3ヵ所、51.7±22.6点)が割り付けられた。それぞれ50例(91%)、45例(80%)が最初の12週の治療を完遂した。
良好な有用性を確認、長期効果や他の症状は評価できず
12週時の平均口腔潰瘍数は、アプレミラスト群が0.5±1.0ヵ所であり、プラセボ群の2.1±2.6ヵ所に比べ有意に少なく(p<0.001)、中央値はそれぞれ0(0~6)ヵ所、2(0~13)ヵ所であった。
ベースラインから12週時までに、口腔潰瘍の平均疼痛スコアは、アプレミラスト群で44.7±24.3点減少したのに対し、プラセボ群では16.0±32.5点の減少であった(p<0.001)。また、24週時までの平均疼痛スコアの低下は、プラセボからアプレミラストへの切り替え群が42.2.±32.2点、アプレミラスト群は44.8±29.8点であり、24週時の平均スコアはそれぞれ9.6±21.1点、9.7±20.3点だった。
ベースライン時にアプレミラスト群の10例、プラセボ群の6例に陰部潰瘍がみられたが、12週時にはアプレミラスト群が0例となったのに対し、プラセボ群は3例に認められた(p=0.04)。
疾患活動性は、Behcet’s Disease Current Activity Form(0~12点、スコアが高いほど活動性が高い)のベースラインから12週時の平均変化は、アプレミラスト群が-1.5点、プラセボ群は-0.1点(p<0.001)、Behcet’s Syndrome Activity Score(0~100点、スコアが高いほど活動性が高い)の平均変化はそれぞれ-21.2点、-6.0点(p<0.001)であり、いずれもアプレミラスト群で有意に抑制されていた。
Behcet’s Disease Quality of Life Measure(0~30点、スコアが高いほどQOLの低下が大きい)によるQOL評価では、ベースラインから12週時の平均変化は、アプレミラスト群が−4.5点、プラセボ群は−1.6点(p=0.04)、SF-36(0~100点、スコアが低いほどQOLの低下が大きい)の身体機能の平均変化はそれぞれ4.7点、−1.7点(p=0.001)であり、いずれもアプレミラスト群で有意に良好だった。
12週までにみられた最も頻度の高い有害事象は両群とも頭痛であった(アプレミラスト群:47%、プラセボ群:45%)。アプレミラスト群で頻度の高い有害事象として、悪心(40 vs. 18%)、嘔吐(16 vs. 2%)、下痢(22 vs. 4%)が認められた。重篤な有害事象は、アプレミラスト群で2例、プラセボ群では1例にみられた。また、12週までに、ベースライン時にはみられなかったベーチェット症候群の症状を新たに発現した患者は、それぞれ22%、48%であった。
著者は、「この予備試験は、長期的な効果やベーチェット症候群の他の症状に対する効果、低頻度の重篤な有害事象のリスクを評価するには症例数および試験期間が十分でなかった」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)