心房細動の有病率4倍に、転帰は改善~フラミンガム研究50年/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2015/05/27

 

 欧米では、人口の高齢化に伴い心房細動の増加が予測されているが、その傾向に関する包括的な長期データは十分でないという。米国国立心肺血液研究所(NHLBI)のRenate B Schnabel氏らは、フラミンガム心臓研究の50年の心房細動に関するデータを解析した。その結果、この50年間で心房細動の有病率は4倍以上に、罹患率は3倍以上に増加したが、発症後の脳卒中の発生率や死亡率は大きく改善していたという。Lancet誌オンライン版2015年5月7日掲載の報告。

罹患率はルーチンの心電図検査では増加せず
 研究グループは、1958~2007年にフラミンガム心臓研究に登録された9,511例を対象に、心房細動の罹患率、有病率、リスク因子を調査し、発症後の脳卒中や死亡との関連について解析した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。

 10年単位で5つの時期に分け(1958~67年、1968~77年、1978~87年、1988~97年、1998~2007年)、男女別の傾向を解析した。50年間(20万2,417人年)の観察期間中に、1,544例が新規に心房細動を発症した。このうち723例(47%)が女性であった。

 心房細動の年齢調整有病率は、男性が1958~67年の20.4/1,000人年から、1998~2007年には96.2/1,000人年へ、女性は13.7/1,000人年から49.4/1,000人年へと、全体で約4倍にまで増加した(いずれも傾向のp<0.0001)。また、同時期の1,000人年当たりの年齢調整罹患率は、男性が3.7から13.4へ、女性は2.5から8.6へと有意に増加した(いずれも傾向のp<0.0001)。

 一方、フラミンガム研究のルーチンの心電図検査に限定すると、心房細動の1,000人年当たりの年齢調整有病率は、男性が1958~67年の12.6から1998~2007年には25.7(傾向p=0.0007)へ、女性は8.1から11.8(傾向p=0.009)へと有意に増加した。これに対し、年齢調整罹患率は、男性が1.83から3.75(傾向p=0.06)、女性は1.31から1.58(p=0.13)と上昇したものの、有意な変化は認めなかった。

 これらのデータからは、臨床症状がみられなくても、生命を脅かす疾患としての心房細動に対する認識の向上が影響している可能性が示唆される。

50年で発症後の脳卒中が74%、死亡は25%減少
 多くの心房細動のリスク因子(加齢、喫煙、アルコール摂取、BMI、収縮期血圧、高血圧治療、糖尿病など)の保有率は経時的に変動していたが、心房細動への影響はほとんどなかった。

 また、多変量で補正後の比例ハザードモデルによる解析では、心房細動発症から20年後までの脳卒中の発症率は、1958~67年に比べ1998~2007年には74%減少した(1958~67年の1998~2007年に対するハザード比[HR]:3.77、95%信頼区間[CI]:1.98~7.20、傾向p=0.0001)。同様に、心房細動発症20年後の死亡率は25%低下した(1.34、0.97~1.86、傾向p=0.003)。

 このような心房細動発症後の転帰の改善には、治療法の進歩のほか、認識の向上およびサーベイランスの強化に基づく続発症の早期発見が寄与している可能性がある。

 著者は、「男女双方の有病率の増加は、発症後の生存期間の延長で説明可能であろう。これに対し、罹患率の増加には、過去50年間における心房細動に対する認識の向上や画一的な診断法の改善などの影響もあると考えられる」とし、「有病率を抑制するには、より効果的なスクリーニング法の研究を促進し、心房細動とその有害な転帰への予防的介入が必要である」と結論している。

(菅野守:医学ライター)