気管支鏡検査による肺がん診断の精度改善に、気管支上皮細胞の遺伝子発現分類を加味することが有用であることが、米国・南カリフォルニア大学のGerard A. Silvestri氏らが行った2つの多施設共同前向き試験(AEGIS-1、AEGIS-2)の結果、示された。米国では年間約50万例の気管支鏡検査が行われているが、そのうち約半数例は肺がんの診断が不能で、それらの多くで追加の侵襲的検査が行われ、結果として良性病変であることが多いという。研究グループは、気管支の遺伝子発現分類を用いることで気管支鏡検査の診断が改善することを確認するため本検討を行った。NEJM誌オンライン版2015年5月17日号掲載の報告より。
2つの前向き試験でスコアを作成、検証
2つの試験は、米国、カナダ、アイルランドの28施設で、肺がん疑いで気管支鏡検査を受けた現在または元喫煙者を登録して行われた。
被験者の正常とみられた主気管支から採取した上皮細胞を用いて遺伝子発現分類を作成し、肺がんの可能性について評価した。
遺伝子発現分類は、AEGIS-1に登録された患者を、試験セット群と確認セット群に無作為に割り付け、試験セット群から遺伝子発現分類アルゴリズム(23遺伝子と年齢から成る)を抽出。これを用いて、AEGIS-1の確認セット群とAEGIS-2の全被験者のスコア分類を行い、事前規定の閾値を用いて、陽性スコアと陰性スコアに分類したものであった。
各試験の被験者は、気管支鏡検査後、肺がんと診断されるまで、もしくは12ヵ月間フォローアップを受けた。
中リスク患者、遺伝子発現分類スコアで多くが侵襲的検査を回避可能
検討には、包含基準を満たした639例(AEGIS-1試験298例、AEGIS-2試験341例)が組み込まれた。そのうち43%(272例)は、肺がんの診断が不能であった。このうち侵襲的検査を受けたことが確認された患者は170/267例(64%)だった。最終的に良性病変であった患者で侵襲的検査を受けていたのは、35%(52/147例)であった。
AEGIS-1試験における遺伝子発現分類のROC曲線下分類(AUC)は0.78(95%信頼区間[CI]:0.73~0.83)、感度は88%(同:83~92%)、特異度は47%(同:37~58%)であった。AEGIS-2試験についてはそれぞれ、0.74(95%CI:0.68~0.80)、89%(同:84~92%)、47%(同:36~59%)であった。
遺伝子発現分類と気管支鏡検査結果を合わせた場合、病変サイズや部位にかかわらず、感度はAEGIS-1試験で96%(95%CI:93~98%)、AEGIS-2試験は98%(同:96~99%)で、各試験の気管支鏡検査単独による感度(それぞれ74%、76%)と比べて有意な改善が認められた(両比較のp<0.001)。
また、医師の評価に基づくがん見込み分類(低:10%未満、中:10~60%、高:60%超)で中リスク群とされた患者101例についても検討した。そのうち83%が気管支鏡検査で診断不能で、肺がんの診断感度は41%(95%CI:26~58%)であったが、同患者の遺伝子発現分類による陰性適中率は91%(同:75~98%)、陽性適中率は40%(同:27~55%)であり、遺伝子発現分類と気管支鏡検査の結果を組み合わせた診断感度は93%(同:80~98%)であった。
これらを踏まえて著者は、「気管支鏡検査で診断不能であった中リスク群の患者には、陰性の遺伝子発現分類スコアを加味することで、より多くの侵襲的検査アプローチの回避につながる」とまとめている。
(武藤まき:医療ライター)