WHOが2005年に始めた医療従事者の手指衛生励行キャンペーン(WHO-5)により、医療従事者の手指衛生コンプライアンスが改善したことが、タイ・マヒドン大学のNantasit Luangasanatip氏らによるシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果、報告された。WHO-5は、医療従事者の手指衛生コンプライアンスが平均38.7%(範囲:5~89%)であったことを鑑みプログラムされたキャンペーン。「システムの変更」「訓練と教育」「観察とフィードバック」「院内での喚起」「病院の安全文化」という5つの項目から成る多様な戦略を推進することで手指衛生の改善を図る。検討の結果、さらなる戦略の追加で改善に結び付くことが判明し、著者は「目標設定、インセンティブ、アカウンタビリティ戦略の追加で、さらなる改善をもたらすことが可能なようだ」と述べている。ただし、それら介入に必要なリソースの報告は不十分なままであるとも指摘している。BMJ誌オンライン版2015年7月28日号掲載の報告。
WHO-5の効果をシステマティックレビューとネットワークメタ解析で検証
研究グループは、2009年12月~2014年2月のMedline、Embase、CINAHL、NHS Economic Evaluation Database、NHS Centre for Reviews and Dissemination、Cochrane Library、the EPOC registerをデータソースとし、1980~2009年の先行システマティックレビューで同一検索単語により選択された試験を対象とした。
病院医療従事者の手指衛生コンプライアンス改善のための介入を行っており、事前に規定された質の基準を満たしているかのコンプライアンスまたは適切なプロキシを測定していた試験(無作為化対照試験、非無作為化試験、前後比較試験、中断された時系列試験など)を包含した。適切ではない分析法が用いられている試験は、元データを再分析した。
手指衛生コンプライアンスを直接的に観察報告しており、介入および参加者に関する均一性が十分にあるとみなした試験について、ランダム効果およびネットワークメタ解析を行った。
目標設定、インセンティブ、アカウンタビリティの介入でさらに改善は可能
3,639試験が抽出され、41試験(無作為化比較試験6件、中断された時系列試験32件、非無作為化試験1件、前後比較試験2件)が包含基準を満たした。
無作為化比較試験2件のメタ解析で、WHO-5への目標設定の追加が、コンプライアンス改善と関連していることが示された(プールオッズ比:1.35、95%信頼区間[CI]:1.04~1.76、I
2=81%)。
ペアワイズ比較の中断された時系列試験22件のうち、18件は手指衛生コンプライアンスの増加が段階的であったことを示していた。4件を除くすべてでコンプライアンスの増大傾向は介入後であったことが示されていた。
ネットワークメタ解析の結果、介入の相対的効果はかなり不確定ではあったが、WHO-5が効果的であるというエビデンスが示され、コンプライアンスは、目標設定、インセンティブ、アカウンタビリティなどの介入を加えることで、さらに改善可能であることが示唆された。
19試験では、臨床的な結果が報告されていた。それらのデータは、すべてではないがいくつかの重大な院内感染の減少が、手指衛生改善によりもたらされたことを示すものだった。
介入のコストについては、1,000床日当たり225~4,669ドルにわたると報告されていた。