米国人では、大量飲酒は何種かのがんリスクを上昇することが知られている。ハーバードTHチャン公衆衛生大学院のYin Cao氏らは今回、少量~中等量の飲酒(女性1日1杯、男性1日1~2杯)により、有意差はないものの発がんリスクがわずかに上昇することを確認した。一方で、喫煙と独立した飲酒の役割は明らかになっていない。米国では非喫煙者が増加しているが、先行研究で喫煙は、飲酒ががんに及ぼす影響を部分的に促進する可能性があることが示されているものの、非喫煙者に喫煙者に関する知見をそのまま当てはめることはできないという。BMJ誌オンライン版2015年8月18日号掲載の報告より。
少量~中等量飲酒の非喫煙者のリスクを2つのコホート試験で検討
研究グループは、アルコール摂取量が少量~中等量の非喫煙者の発がんリスクを定量化し、飲酒パターンが発がんリスクに及ぼす影響を評価するために、米国で進行中の2つの前向きコホート試験のデータを解析した(米国国立衛生研究所[NIH]の助成による)。
米国看護師健康調査(Nurses’ Health Study:登録時30~55歳、1980年以降)および医療従事者追跡調査(Professionals Follow-up Study:登録時40~75歳、1986年以降)の参加者(女性:8万8,084例、男性:4万7,881例)の2010年までの追跡データを使用した。
1日アルコール摂取量(g/日)は、アルコール飲料のタイプ別に計算して合計量を算出し、6段階に分けた(非飲酒、0.1~4.9g/日、5~14.9g/日、15~29.9g/日、30~44.9g/日、45g以上/日)。少量~中等量のアルコール摂取とは、女性の場合は0.1~14.9g/日、男性は0.1~29.9g/日と定義した。
ビールは12オンス(355mL)でアルコール12.8g、ライト・ビールは12オンスで同11.3g、ワインは4オンス(118mL)で同11.0g(2006年に1杯分5オンス[148mL]に増量)、蒸留酒は標準量(44mL)で同14.0gとした。
がん全体のリスクのほか、アルコール関連がん(大腸がん、乳がん[女性]、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、肝がん、食道がん)のリスクについて評価を行った。
最長30年のフォローアップ期間中に、女性1万9,269例、男性7,571例(非進行性の前立腺がんを除く)ががんを発症した。ベースラインのアルコール摂取量中央値は、女性が1.8g/日、男性は5.6g/日であった。
生涯非喫煙女性は1日1杯の飲酒で乳がんリスクが上昇
非飲酒群に比べ、女性の少量~中等量群のがん全体の相対リスク(RR)は、0.1~4.9g/日群が1.02(95%信頼区間[CI]:0.98~1.06)、5~14.9g/日群は1.04(95%CI:1.00~1.09)であった(傾向検定:p=0.12)。
同様に、男性では、0.1~4.9g/日群のRRが1.03(95%CI:0.96~1.11)、5~14.9g/日群が1.05(95%CI:0.97~1.12)、15~29.9g/日群は1.06(0.98~1.15)だった(傾向検定:p=0.31)。
少量~中等量群とがん全体の関連は、元喫煙者や生涯非喫煙者で類似していたが、中等量以上(30g/日以上)のアルコールを摂取する群では生涯非喫煙者よりも元喫煙者でがん全体のリスクがより高かった。
事前に定義されたアルコール関連がんのリスク上昇は、少量~中等量群の生涯非喫煙者の男性では明確ではなかった(傾向検定:p=0.18)が、5~14.9g/日群の生涯非喫煙女性ではアルコール関連がんのリスクが有意に上昇しており(RR:1.13、95%CI:1.06~1.20)、とくに乳がんのリスクが高かった。
より頻回の飲酒をする群や大量飲酒のエピソードのある群では、全体のアルコール摂取で補正後のがん全体のリスクは、男女ともにそれ以上増大することはなかった。
著者は、「少量~中等量のアルコール摂取者は男女ともに、がん全体のリスクがわずかに上昇していたが、有意ではなかった。1日に1~2杯の飲酒をする男性では、アルコール関連がんは主に喫煙者で発症しており、生涯非喫煙者のリスクははっきりしなかった。これに対し、1日に1杯の飲酒をする非喫煙女性ではアルコール関連がん(主に乳がん)のリスクが上昇していた」とまとめている。
(菅野守:医学ライター)