急性静脈血栓塞栓症(VTE)を呈した担がん(active cancer)患者に対し、低分子ヘパリン製剤tinzaparinは、ワルファリンとの比較においてVTE再発を抑制しなかったことが報告された。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のAgnes Y. Y. Lee氏らが、900例を対象とした国際多施設共同無作為化試験の結果、報告した。複合アウトカム評価による本検討では、全死因死亡と重大出血抑制との関連は示されなかったが、臨床的に意味のある非重大出血の抑制は認められた。著者は、「再発VTリスクが高い患者で結果が異なるかについて、さらなる検討を行う必要がある」と述べている。JAMA誌2015年8月18日号掲載の報告。
32ヵ国164施設900例を対象に無作為化試験
急性VTEを呈した担がん患者の治療については、先行研究の単施設大規模試験の結果を踏まえて、ワルファリンよりも低分子ヘパリンが推奨されている。
今回研究グループは、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米、中米、南米の32ヵ国164施設で被験者を登録し、tinzaparin vs.ワルファリンの有効性と安全性について検討した。試験期間は2010年8月~2013年11月、無作為化非盲検試験にて試験アウトカムの評価は盲検化中央判定にて検討した。
被験者は、担がん状態(組織学的または細胞診で確認がされており、次のいずれかに当てはまる患者:(1)過去6ヵ月間にがんと診断、(2)再発、局所進行または転移性、(3)過去6ヵ月間にがん治療、(4)非完全寛解の造血器腫瘍)、客観的診断による近位部型深部静脈血栓症(DVT)または肺塞栓症を有し、余命は6ヵ月超、抗凝固薬の禁忌なしの18歳以上成人であった。無作為に2群に割り付け、一方にはtinzaparin 175 IU/kgが1日1回6ヵ月投与(tinzaparin群449例)。もう一方は6ヵ月間の従来療法群として、最初の5~10日間tinzaparin 175 IU/kg 1日1回を投与したのち、ワルファリン単独投与でINR2.0~3.0を維持した(ワルファリン群451例)。
フォローアップ訪問が、7、14、30日、以後30日間ごとに180日時点まで行われ、また再発VTEの徴候や症状がみられないか、スタッフによる電話フォローが、月ごとの訪問後2週目に行われた。
主要有効性アウトカムは、中央判定による再発DVT、致死的または非致死的肺塞栓症、2次性VTE発生の複合とした。安全性アウトカムは、重大出血、臨床的に意味のある非重大出血、全死因死亡などだった。
tinzaparin群の再発VTE、有意な抑制は認められず
結果、再発VTEの発生は、tinzaparin群31/449例、ワルファリン群45/451例だった。6ヵ月間の累積発生率は、tinzaparin群7.2% vs. ワルファリン群10.5%で、有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.41~1.03、p=0.07)。
同様に、重大出血(12例 vs.11例、HR:0.89、95%CI:0.40~1.99、p=0.77)、全死因死亡(150例 vs.138例、1.08、0.85~1.36、p=0.54)でも有意差はみられなかった。
一方で臨床的に意義のある非重大出血の発生については、tinzaparin群の有意な低下が認められた(49/449例 vs.69/451例、HR:0.58、95%CI:0.40~0.84、p=0.004)。