英国・Wellcome Trust Sanger InstituteのIsabelle Cleynen氏らは、クローン病と潰瘍性大腸炎(UC)の遺伝的決定因子に関する大規模な遺伝子型関連研究を行った。その結果、現在、両者を炎症性腸疾患(IBD)に類するものとする定義付けを支持する結果が得られたものの、分類としては3群(回腸クローン病、大腸クローン病、UC)とするほうがより適切であることなどを報告した。現在、クローン病とUCは、IBDの2大疾患とされており、これまで同分類概念を基に治療戦略が確立されてきた。Lancet誌オンライン版2015年10月16日号掲載の報告。
3万4,819例の患者を遺伝的に分類、遺伝的リスクスコアを作成し検証
これまでの遺伝学的研究により、IBDに関わる163の遺伝子座が見つかっており、その大半が、クローン病とUC共通のものであることが判明している。研究グループは、IBDの臨床的サブタイプデータを用いた大規模な遺伝子型関連研究により、疾患の生物学的関連について理解を深める検討を行った。
ヨーロッパ、北米、オーストララシア(南洋州)16ヵ国の医療機関49ヵ所から患者を包含。IBDサブ表現型のモントリオール分類法を用いて、3万4,819例の患者(クローン病1万9,713例、UC 1万4,683例)を遺伝的にImmunochip array分類した。遺伝子型-表現型の関連検証は、全体で15万6,154個の変異型に及んだ。
すべての既知のIBD関連情報と個別の表現型の遺伝的リスクサマリーを統合して遺伝的リスクスコアを作成し、このリスクスコアを用いて、大腸クローン病、回腸クローン病、UCは、すべて遺伝的に異なっているとの仮説について検証。また、臨床的診断と遺伝的リスクプロファイルが異なる患者を特定する試みを行った。
遺伝的に大腸クローン病と回腸クローン病は明確に区分
質的調整後、主要解析には患者2万9,838例を包含した(クローン病1万6,902例、UC 1万2,597例)。
結果、主要疾患部位(基本固定期間:フォローアップ中央値10.5年)で、IBDサブ表現型と関連する3つの遺伝子座(
NOD2、
MHC、
MST1 3p21)が特定された。疾患の性質(経時的に劇的に変化)と遺伝的関連は、疾患部位、発症時年齢で調整後はほとんど残存しなかった。
IBDに関する既知の全リスクアレルを表す遺伝的リスクスコアは、疾患サブ表現型と強く関連していた(p=1.65×10
-78)。同関連は、
NOD2、
MHC、
MST1 3p21を除外しても変わらなかった(p=9.23×10
-18)。
遺伝的リスクスコアに基づく予測モデルは、大腸クローン病と回腸クローン病を明確に区分した。また、遺伝的リスクスコアは、遺伝的リスクプロファイルに矛盾がある少数の患者を特定し、それらの患者はフォローアップ後に診断を修正される可能性が有意に高かった(p=6.8×10
-4)。
これらを踏まえて著者は、「所見データは、IBDに類する障害であることを支持するものであったが、現在定義されるクローン病とUCという分類よりも、3群(回腸クローン病、大腸クローン病、UC)のほうがより適切であることが示された。疾患部位は、患者の疾患の内的側面であり、遺伝的に規定された一部で、疾患の性質の経時的な変化が発症の主因である」とまとめている。