心血管リスクが高い2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)は、標準治療への追加によりプラセボと比較して腎症の進行を抑制し、臨床的な腎イベント発生率を低下させることが明らかとなった。ドイツ・Wurzburg University ClinicのChristoph Wanner氏らが、EMPA-REG OUTCOME試験で事前に規定されていた腎アウトカムの解析から報告した。糖尿病では心血管および腎イベントのリスクが増加するが、エンパグリフロジンは、EMPA-REG OUTCOME試験において標準治療への追加により、主要評価項目である心血管イベントのリスクを有意に低下させることが報告され、注目されていた。NEJM誌オンライン版2016年6月14日号掲載の報告。
約7,000例でエンパグリフロジン上乗せによる腎アウトカムを解析
EMPA-REG OUTCOME試験は、42ヵ国、590施設において、心血管イベントの発生リスクが高い2型糖尿病患者を対象に、エンパグリフロジンの標準治療への上乗せによる有効性を評価した長期無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。心血管疾患の既往歴を有し、推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m
2以上の2型糖尿病患者7,020例が、エンパグリフロジン(10mgまたは25mg、1日1回投与)群、またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。
事前に規定された腎アウトカムは、腎症の発症・悪化(微量アルブミン尿の進行、血清クレアチニン倍化、腎代替療法の導入、腎疾患による死亡)、ならびにアルブミン尿の新規発症であった。
プラセボと比較し、腎症の発症・悪化が39%、腎代替療法導入が55%低下
治療期間中央値2.6年、観察期間中央値3.1年において、腎症の発症・悪化はエンパグリフロジン群で12.7%(525/4,124例)、プラセボ群で18.8%(388/2,061例)にみられ、エンパグリフロジン群で39%有意なリスク低下が認められた(ハザード比[HR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.53~0.70、p<0.001)。血清クレアチニンの倍化は、エンパグリフロジン群で1.5%(70/4,645例)、プラセボ群で2.6%(60/2,323例)にみられ、エンパグリフロジン群で44%有意にリスクが低下した(HR:0.56、95%CI:0.39~0.79、p<0.001)。また、腎代替療法の導入率はエンパグリフロジン群0.3%(13/4,687例)、プラセボ群0.6%(14/2,333例)であり、エンパグリフロジン群で55%有意にリスクが低下した(HR:0.45、95%CI:0.21~0.97、p=0.04)。アルブミン尿の新規発症率は、両群間で有意差は認められなかった(エンパグリフロジン群51.5%、プラセボ群51.2%、p=0.25)。
ベースラインに腎機能障害を有する患者におけるエンパグリフロジンの有害事象プロファイルは、患者全体で報告されたものと類似していた。
なお、著者は「今回の結果は心血管リスクの低い2型糖尿病患者にも一般化できるというわけではなく、エンパグリフロジン投与患者でみられた腎機能の違いを説明するには追跡期間が不十分である」と述べている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)