左室駆出率(LVEF)が低下した急性心不全入院患者に対し、GLP-1受容体作動薬リラグルチドを投与しても退院後のより高度な臨床的安定性には結び付かないことが、米国・ペンシルベニア大学のKenneth B. Margulies氏らによる第II相二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、示された。GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病の状態にかかわらず、重症心不全患者の初期臨床試験で心保護作用を認めることが報告されていた。これを受けて研究グループは、急性心不全患者に対しGLP-1受容体作動薬を投与することで、退院後の臨床的安定性が改善するのかを検討したが、著者は「検討の結果は、そのような臨床効果を期待してのリラグルチドの使用を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌2016年8月2日号掲載の報告。
急性心不全患者におけるGLP-1受容体作動薬vs.プラセボ
試験は2013年8月~2015年3月に、米国24施設で行われた。研究グループは被験者を無作為に2群に割り付けて、一方にはGLP-1受容体作動薬リラグルチドを1日1回皮下注にて投与(1.8mg/日量を忍容性検証期間として30日間、その後180日間投与)、もう一方はプラセボを投与した。
主要エンドポイントは、割り付け治療を問わずすべての患者における総合ランクスコアで、3項目(死亡までの期間、心不全再入院までの期間、ベースライン~180日のNT-proBNP値の時間平均化変化比率)についてランク付けを行った。ランクは高位ほどより健康(安定)であることを示す。また、探索的副次アウトカムとして、主要エンドポイントの各項目と、心構造・機能、6分間歩行テスト、QOL、複合イベント発生などを評価した。
GLP-1受容体作動薬は死亡、再入院、NT-proBNP値変化などに有意差みられず
急性心不全患者300例(リラグルチド投与群154例、プラセボ群146例)が、無作為に割り付けられた。被験者は、年齢中央値61歳(IQR:52~68歳)、女性21%、2型糖尿病あり患者59%、LVEF中央値25%(IQR:19~33%)だった。
結果、プラセボと比較してGLP-1受容体作動薬リラグルチドの有意な主要エンドポイントの効果は認められなかった(平均ランク:リラグルチド群146 vs.プラセボ群156、p=0.31)。
項目別にみても、死亡(12% vs.11%、ハザード比[HR]:1.10、95%信頼区間[CI]:0.57~2.14、p=0.78)、心不全での再入院(41% vs.34%、1.30、0.89~1.88、p=0.17)、またNT-proBNP値変化(変化比率でみたp=0.65)と両群間の有意差は認められなかった。探索的副次エンドポイントも有意差はみられなかった。また、事前規定のサブグループ(糖尿病患者群)解析でも、両群間で有意差はみられなかった。
試験担当者が報告した高血糖イベント例は、リラグルチド群16例(10%)、プラセボ群27例(18%)だった。低血糖イベントの報告はわずかであった[2例(1%) vs.4例(3%)]。
(當麻 あづさ:医療ジャーナリスト)