重症大動脈弁狭窄症で周術期死亡リスクが低度~中程度の患者に対する弁置換術について、大半の患者、とくに余命が短い患者、あるいは長期的な弁変性のリスクに留意する必要のない患者では、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)が外科的大動脈弁置換術(SAVR)よりもネットベネフィットが認められるようだ。ただし、留置経路について経大動脈アプローチが候補とならない患者に関しては、SAVRのほうがアウトカムは良好になるという。カナダ・トロント大学のReed A Siemieniuk氏らがシステマティック・レビューとメタ解析の結果、報告した。BMJ誌2016年9月28日号掲載の報告。
TAVI対SAVRの無作為化試験をメタ解析
研究グループは、Medline、Embase、Cochrane CENTRALを用いて、周術期死亡リスクが平均8%未満の患者でTAVI対SAVRを検討した無作為化試験を選択。2人の独立レビュワーがそれぞれデータを抽出し、患者にとって重要となるアウトカムのバイアスリスクを評価した。患者は患者アドバイザーを含むパラレルガイドライン委員会によって演繹的に選択された。
GRADE systemを用いて、有効性の絶対値とエビデンスの質を定量化した。
死亡と脳卒中リスク、経大動脈TAVIでは低下、経心尖TAVIでは増大
解析には、4試験、3,179例の患者データが含まれた。追跡期間中央値は2年であった。
SAVR群との比較で、経大動脈TAVI群は死亡(1,000患者当たりのリスク差:-30、95%信頼区間[CI]:-49~-8、確実性:中程度)、脳卒中(-20、-37~1、中程度)、生命にかかわる出血(-252、-293~-190、高度)、心房細動(-178、-150~-203、中程度)、急性腎障害(-53、-39~-62、高度)は低下した一方で、短期の大動脈弁再置換(7、1~21、中程度)、永久的ペースメーカ植込み(134、16~382、中程度)、中等度または重篤な心不全(18、5~34、中程度)は増大が認められた。
一方、SAVR群との比較で、経心尖TAVI群は死亡(57、-16~153、中程度、経大動脈 vs.経心尖TAVI群の相互作用p=0.015)、脳卒中(45、-2~125、中程度、p=0.012)の増大が認められた。
TAVIはSAVRよりも低侵襲性で、手術リスクが高いまたは非常に高い患者に好ましい術式とされているが、検討の結果を踏まえて著者は「TAVIがSAVRよりも優れるかは、アプローチによって異なる。経大動脈TAVIは死亡や脳卒中リスクを低下するが、経心尖TAVIはこれらのリスクを増大する可能性がある」とまとめている。また、TAVIについて、2年時点の心不全リスク増大は6%、弁再置換リスク増大は1%であったが、「とくに弁劣化が重要になるのだが、長期フォローアップの報告がなく、長期アウトカムについては不明のままである」と述べている。