外科的大動脈弁置換術(SAVR)における虚血性中枢神経系損傷の減少に対する、脳塞栓保護デバイスの有効性と安全性を検証した無作為化臨床試験の結果を、米国・Baylor Scott & White HealthのMichael J. Mack氏らが報告した。SAVR施行患者において、脳塞栓保護デバイスは標準的な大動脈カニューレと比較し、7日後の脳梗塞リスクを有意に減少するには至らなかったものの、著者は、「せん妄の減少、認知機能、症候性脳卒中に有用である可能性が示唆され、大規模臨床試験で長期追跡調査を実施するに値する」とまとめている。脳卒中はSAVRの重大な合併症で、脳塞栓保護デバイスの意義について、より厳密なデータが求められている。JAMA誌2017年8月8日号掲載の報告。
吸引型デバイス/大動脈内フィルター使用と、標準的な大動脈カニューレを比較
研究グループは、2015年3月~2016年7月、北米の18施設において、SAVR施行予定の石灰化大動脈弁狭窄症患者383例(平均年齢73.9歳、女性38.4%)を、SAVR施行時、脳塞栓保護デバイス使用群(吸引型デバイス群118例、大動脈内フィルター群133例)または標準的な大動脈カニューレ使用群(対照群132例)に無作為に割り付けた(試験完遂368例[96.1%]、追跡調査終了2016年12月)。
主要エンドポイントは、術後7日(±3日)時での臨床的/画像的脳梗塞の発生、副次エンドポイントは、術後30日以内の死亡・臨床的虚血性脳卒中・急性腎障害の複合エンドポイント、せん妄、死亡、重篤な有害事象、神経認知機能などであった。
なお試験は開始当初、大動脈内フィルター群と対照群の2群であったが、開始6週後に吸引型デバイスが臨床使用可能となったことから、その後は3群に割り付けることにプロトコルが変更された。したがって、統計解析ではintention-to-treat χ2検定により、デバイス別に対照群と比較した。
SAVR後7日の脳梗塞無発生率、脳塞栓保護デバイスと対照とで有意差なし
主要エンドポイントの術後7日間の臨床的/画像的脳梗塞の無発生率は、吸引型デバイス群32.0% vs.対照群33.3%(群間差:-1.3%、95%信頼区間[CI]:-13.8~11.2)、大動脈内フィルター群25.6% vs.対照群32.4%(群間差:-6.9%、95%CI:-17.9~4.2)で有意差は確認されなかった。
副次エンドポイントの術後30日以内の複合エンドポイントの発生率も、吸引型デバイス群21.4% vs.対照群24.2%(群間差:-2.8%、95%CI:-13.5~7.9)、大動脈内フィルター群33.3% vs.対照群23.7%(群間差:9.7%、95%CI:-1.2~20.5)で、いずれの比較群間とも有意差は確認されなかった。個別にみても、死亡率(吸引型デバイス群3.4% vs.対照群1.7%、大動脈内フィルター群2.3% vs.対照群1.5%)、臨床的脳卒中(吸引型デバイス群5.1% vs.対照群5.8%、大動脈内フィルター群8.3% vs.対照群6.1%)とも比較群間で有意差はなかった。
また、術後7日目のせん妄発生率は、吸引型デバイス群6.3% vs.対照群15.3%(群間差:-9.1%、95%CI:-17.1~-1.0、p=0.03)、大動脈内フィルター群8.1% vs.対照群15.6%(群間差:-7.4%、95%CI:-15.5~0.6、p=0.07)であった。
術後90日までの重篤な有害事象の発現率および死亡率は、すべての群で有意差は確認されなかったが、大動脈内フィルター群では対照群と比較し急性腎障害(14 vs.4例、p=0.02)および不整脈(57 vs.30例、p=0.004)が有意に多かった。
なお、著者は研究の限界として、術後7日の評価には術中塞栓と関連しない脳梗塞が含まれた可能性があることなどを挙げているほか、本試験は2種類の脳塞栓保護デバイスを直接比較したものではない点に留意が必要としている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)