大手術を受ける成人患者では、術中に麻酔科医の引き継ぎが行われた場合、引き継ぎがない場合に比べ、術後の有害な転帰のリスクが増加することが、カナダ・ウェスタンオンタリオ大学のPhilip M. Jones氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年1月9日号に掲載された。個人的または職業的な義務、体調不良や疲労により、術中に麻酔科医が別の麻酔科医に交代することがある(一時的引き継ぎ[引き継いで、後で戻る場合]と完全な引き継ぎがある)。多忙な環境で安全な麻酔診療の全情報を医師間で伝達する必要があるため、引き継ぎ中は患者にとって危険な時間となる可能性があるという。
完全な引き継ぎの有無で、転帰を後ろ向きに検討
研究グループは、術中に麻酔科医が別の麻酔科医に引き継ぐことが、死亡や重大な合併症の増加をもたらすかをレトロスペクティブに評価する、地域住民ベースのコホート研究を実施した(ウェスタンオンタリオ大学麻酔科・周術期医療科の助成による)。
2009年4月1日~2015年3月31日に、手術時間が2時間以上で1泊以上の入院を要したと推測される大手術を受け、年齢が18歳以上の患者を同定した。術中に、麻酔診療が別の麻酔科医に完全に引き継がれた患者と、引き継ぎが行われなかった患者の転帰を比較した。
主要評価項目は、術後30日以内の全死因死亡、再入院、重大な術後合併症の複合とした。副次評価項目は、主要評価項目の個々の項目などであった。傾向スコアに基づく曝露重み付けの逆確率(inverse probability of exposure weighting)を用いて、調整済み曝露効果を推定した。
麻酔引き継ぎ手術は年々増加
31万3,066例が解析の対象となった。女性56%、平均年齢60歳(SD 16)であった。手術の49%が大学病院で行われ、72%は待機的手術であり、手術時間中央値は182分(四分位範囲[IQR]:124~255)だった。
このうち5,941例(1.9%)で、術中に麻酔科医の完全な引き継ぎが行われた。麻酔科医の引き継ぎ手術を受けた患者の割合は年々増加し、2015年には2.9%に達した。
未調整のサンプルでの主要評価項目の発生率は、引き継ぎ群が44%(2,583例)、非引き継ぎ群は29%(9万306例)であり、リスク差(RD)は14.1%(95%信頼区間[CI]:12.8~15.3、p<0.001)であった。
調整を行うと、主要評価項目の発生率は、引き継ぎ群が36%、非引き継ぎ群は29%であり、調整後RD(aRD)は6.8%(95%CI:4.5~9.1、p<0.001)と、引き継ぎ群で有意に高かった。
また、調整後の術後30日以内の全死因死亡(4 vs.3%、aRD:1.2%、95%CI:0.5~2.0、p=0.002)および重大な合併症(29 vs.23%、aRD:5.8%、95%CI:3.6~7.9、p<0.001)の発生率はいずれも引き継ぎ群で有意に高かったが、再入院(8 vs.7%、aRD:1.2%、95%CI:-0.3~2.7、p=0.11)には有意な差がなかった。
著者は、「これらの知見は、麻酔診療の完全な引き継ぎの制限を支持するものと考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)