1995~2015年において世界的に増加している総保健医療費は、とくに中所得国での1人当たりの増加が最も急速であった。こうした国家間格差は比較的よく知られているが、低所得国は高所得国や中所得国と比較し、健康やHIV/AIDSに対する1人当たりの支出が少なく、そのうえHIV/AIDSも含めた健康に関する開発支援の減少が続いており、その減少速度はさらなる開発支援の削減によって速められ、世界および国家目標の前進を遅らせる危険性があるという。米国・ワシントン大学のJoseph L. Dieleman氏らが、188ヵ国における、健康に関する開発支援を含む財源別の保健医療費増加額を推定するとともに、初めてHIV/AIDSの予防および治療に対する支出を資金源ごとに算出し、報告した。保健医療費を同等に推算することは、医療システムの評価や保健資源の最適な配備のために重要である。保健医療費の調査手法は進化を続けているが、疾患全体の支出配分に関してはほとんど知られていなかった。Lancet誌オンライン版2018年4月17日号掲載の報告。
188ヵ国の保健医療費とHIV/AIDS関連費を推算
研究グループは、さまざまな国際機関から1995~2015年における各国の保健医療費に関する公表データを収集するとともに、1990~2017年の健康開発支援を追跡した。さらに、オンラインのデータベース、各国のレポート、多国間組織へ提出された提案から、2000~15年におけるHIV/AIDS関連費に関する5,385のデータを抽出し、時空間ガウス過程回帰モデルを用いて、保健医療費およびHIV/AIDS関連費を完全かつ同等に推算した。
ほとんどの推算は2017年に購買力平価を調整した米ドルで報告し、すべての推算はインフレの影響に関して調整した。
健康開発支援が減少する一方で、低中所得国では1人当たりの保健医療費が急速に増加
1995~2015年に、世界の1人当たりの保健医療費は年率で3.1%(95%不確定区間[UI]:3.1~3.2)増加し、高中所得国(1人当たり5.4%、95%UI:5.3~5.5)と低中所得国(1人当たり4.2%、95%UI:4.2~4.3)での増加が著しかった。2015年における世界の総保健医療費は9.7兆ドル(9.7~9.8兆)で、そのうち高所得国が6.5兆ドル(6.4~6.5兆)で66.3%(66.0~66.5%)を占め、一方、低所得国は703億ドル(693~713億)で0.7%(0.7~0.7%)であった。
1990~2017年に、健康開発支援は394.7%(299億ドル)増加し、2017年の健康開発支援は374億ドルと推算され、このうち91億ドル(24.2%)がHIV/AIDS関連費であった。2000~15年に、5,626億ドル(5,311~6,219億)が世界中でHIV/AIDSに費やされていた。このうち57.6%(52.0~60.8%)が政府の融資であった。世界のHIV/AIDS関連費は、2013年に497億ドル(462~547億)とピークに達し、2015年には489億ドル(452~542億)に減少した。また、その間のHIV/AIDS障害調整生命年の74.6%が低所得国と中所得国で占められていたが、HIV/AIDSに費やした支出に占める割合は36.6%(34.4~38.7%)であった。
2015年には、93億ドル(85~104億)、HIV/AIDS融資の19.0%(17.6~20.6%)が予防のために、273億ドル(245~311億)、55.8%(53.3~57.9%)がケアと治療のために費やされていた。
(医学ライター 吉尾 幸恵)