子宮内膜スクラッチは、体外受精の胚着床を促進して妊娠の確率を高める目的で開発された技術である。ニュージーランド・オークランド大学のSarah Lensen氏らPIP試験の研究グループは、pipelle生検を用いる子宮内膜スクラッチの有用性を検討し、この技術は体外受精を受ける女性の生児出産率を改善しなかったとの研究結果を、NEJM誌2019年1月24日号で報告した。
5ヵ国で行われたプラグマティックな無作為化試験
本研究は、5ヵ国13施設が参加したプラグマティックな非盲検無作為化対照比較試験で、2014年6月~2017年6月の期間に患者登録が行われた(オークランド大学などの助成による)。
対象は、体外受精(新鮮胚または凍結胚を移植)を受ける女性で、最近、子宮鏡検査などの損傷を与える可能性のある子宮内器具操作を受けていない患者であった。被験者は、子宮内膜スクラッチを施行する群または介入を行わない対照群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。
子宮内膜スクラッチは、胚移植周期の前の周期の3日目から胚移植周期の3日目までに、生検用カテーテルであるpipelleを用いて行った。
主要アウトカムは、生児出産とした。
生児出産率は同等、臨床的妊娠率や妊娠継続率にも差はない
3年間で1,364例が無作為化の対象となり、子宮内膜スクラッチ群に690例、対照群には674例が割り付けられた。
ベースラインの年齢中央値は、両群とも35歳(IQR:32~38)であった。全体の約25%が、2回以上の胚移植の不成功を経験していた。低受精の原因は、約35%が男性側の要因、約30%が不明、約12%が排卵障害、約12%が卵管の要因であった。
生児出産率(intention-to-treat解析)は、子宮内膜スクラッチ群が690例中180例(26.1%)、対照群は674例中176例(26.1%)であり、両群で同等であった(補正後オッズ比[OR]:1.00、95%信頼区間[CI]:0.78~1.27、p=0.97)。未補正およびper-protocol解析の結果もほぼ同様であった。
妊娠継続率(子宮内膜スクラッチ群26.2% vs.対照群27.2%、補正後OR:0.96、95%CI:0.76~1.23)、臨床的妊娠率(妊娠約6週時に1つ以上の胎嚢を確認:31.4% vs.31.2%、1.01、0.80~1.27)、多胎妊娠率(2.2% vs.1.8%、1.22、0.57~2.67)、子宮外妊娠率(0.4% vs.0.4%、0.98、0.18~5.32)、流産率(5.2% vs.4.5%、1.17、0.10~1.94)にも、両群間に有意な差はみられなかった。
子宮内膜スクラッチ群の女性の疼痛スコア(0~10点、スコアが高いほど痛みが強いことを示す)の中央値は3.5点(IQR:1.9~6.0)であり、37例が0点、6例が10点だった。子宮内膜スクラッチ後に14件の有害反応(5例で過度の疼痛、7例で失神/強いめまいの感覚/吐き気、2例で過度の出血)が認められた。
著者は、費用や非簡便性の問題を指摘したうえで、「これまでに行われた試験の結果は一致していないが、全般に子宮内膜スクラッチのほうが良好であった。これらの試験の多くは小規模で検出力が十分でなく、バイアスリスクが高いが、今回の試験は症例数が多く、選択バイアスのリスクは低い」としている。
(医学ライター 菅野 守)