2017年3月、英国政府は、食品製造および小売業界との協働で、シリアルや菓子類など特定の食品群の砂糖含有量を2020年までに20%削減する計画を発表した。イングランド公衆衛生庁(Public Health England)は、砂糖摂取目標を1日摂取カロリーの5%までとすることで摂取カロリーを11%削減し、これによって年間砂糖関連死を4,700件減らし、医療費を年間5億7,600万ポンド抑制するとのモデルを打ち出した。今回、同国オックスフォード大学のBen Amies-Cull氏らは、砂糖減量計画の潜在的な健康上の有益性について予測評価を行い、BMJ誌2019年4月17日号で報告した。
砂糖減量計画の肥満、疾病負担、医療費への影響を検討
研究グループは、英国政府による砂糖減量計画が子供および成人の肥満、成人の疾病負担、医療費に及ぼす影響の予測を目的にモデル化研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。
全国食事栄養調査(National Diet and Nutrition Survey:NDNS)の2012~13年度と2013~14年度におけるイングランドの食品消費と栄養素含有量データを用いてシミュレーションを行い、砂糖減量計画によって達成される体重およびBMIの潜在的な変化を予測するシナリオをモデル化した。
シナリオ分析は、個々の製品に含まれる砂糖の量の20%削減(低砂糖含有量製品へ組成を変更または販売の重点の転換[砂糖含有量の多い製品から少ない製品へ])または製品の1人前分量の20%削減について行った。イングランドに居住する4~80歳のNDNS調査対象者1,508例のデータを用いた。
主要アウトカムは、子供と成人の摂取カロリー、体重、BMIの変化とした。成人では、質調整生存年(QALY)および医療費への影響などの評価を行った。
10年で、糖尿病が15万4,550例減少、総医療費は2億8,580万ポンド削減
砂糖減量計画が完全に達成され、予定された砂糖の減量がもたらされた場合、1日摂取カロリー(1kcal=4.18kJ=0.00418MJ)は、4~10歳で25kcal(95%信頼区間[CI]:23~26)低下し、11~18歳も同じく25kcal(24~28)、19~80歳では19kcal(17~20)低下すると推定された。
介入の前後で、体重は4~10歳で女児が0.26kg、男児は0.28kg減少し、これによってBMIはそれぞれ0.17、0.18低下すると予測された。同様に、11~18歳の体重は女児が0.25kg、男児は0.31kg減少し、BMIはそれぞれ0.10、0.11低下した。また、19~80歳の体重は女性が1.77kg、男性は1.51kg減少し、BMIは0.67、0.51低下した。
全体の肥満者の割合は、ベースラインと比較して、4~10歳で5.5%減少し、11~18歳で2.2%、19~80歳では5.5%減少すると予測された。
QALYについては、10年間に、女性で2万7,855 QALY(95%不確定区間[UI]:2万4,573~3万873)、男性では2万3,874 QALY(2万1,194~2万6,369)延長し、合わせて5万1,729 QALY(4万5,768~5万7,242)の改善が得られると推算された。
疾患別のQALY改善への影響は、糖尿病が圧倒的に大きく、10年間に女性で8万9,571例(95%UI:7万6,925~10万1,081)、男性で6万4,979例(5万5,698~7万3,523)、合計15万4,550例(13万2,623~17万4,604)が減少すると予測された。また、10年で大腸がんが5,793例、肝硬変が5,602例、心血管疾患は3,511例減少するが、肺がんと胃がんの患者はわずかに増加した。総医療費は、10年間に2億8,580万ポンド(3億3,250万ユーロ、3億7,350万米ドル、95%UI:2億4,970万~3億1,980万ポンド)削減されると推定された。
3つの砂糖減量アプローチ(製品組成の変更、1人前分量の削減、販売の重点の転換)のうち、1つで摂取カロリー削減に成功しなかった場合、疾病予防への影響が減衰し、健康上の有益性が容易に失われる可能性が示唆された。
著者は、「英国政府による砂糖減量計画では、砂糖の量および1人前の分量の削減が、摂食パターンや製品組成に予期せぬ変化をもたらさない限り、肥満および肥満関連疾患の負担の軽減が可能と考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)