1991年の湾岸戦争時も話題になった、複数ワクチン接種と健康不良との関連。本報告は、2003年以降イラク戦争に従軍したイギリス軍兵士を対象にしたもので、ロンドン大学Dominic Murphy氏らによるもの。複数のワクチン接種と健康不良との関係を、ワクチン接種の事実に関する自己申告群と、診療録で確認できた群とで、それぞれ検証した。結果、複数ワクチン接種は健康不良とは無関係と報告している。BMJ誌2008年6月30日号掲載より。
ワクチン接種と健康不良の関係を自己申告群と記録確認群で検証
試験参加者は、2003年以降イラクに展開し1日に複数ワクチンを受けたと回答した軍人から無作為に選択された4,882例。陸軍68%、海軍14%、空軍16%で、将校が16%、女性は8%。平均32.2歳。
このうち、ワクチン接種の記録を確認することができた378例をサブセットグループとし検証対照とした。378人のうち、303人は自己申告と診療録の記録が一致していた。
主要転帰項目は、心理的苦痛、疲労、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状、健康を自覚、および多発性身体症状。
思い出しバイアスで混乱を来した?
1日で2種以上のワクチン接種を受けたと自己申告した人は、疲労(調整後リスク比:1.17、95%信頼区間1.05~1.30)、共通した精神障害(1.31、1.13~1.53)、多発性身体症状(1.32、1.08~1.60)を呈する傾向があった。
しかし、診療録でワクチン接種が確認できたサブセットグループで検証した結果、1種だった場合と2種以上だった場合とで、健康結果に有意な差は見られなかった。
Murphy氏は、「イラク戦争に従軍した英軍兵士の、複数ワクチン接種と有害な健康結果とは無関係。有害な健康結果は、あくまで自己申告した場合に関連が示されており、“思い出しバイアス”(記憶が定かでなく回答に誤りがある等)がかかっていると解釈される」と結論。「湾岸戦争時の検証では、自己申告に基づく検証しか行われなかった。同様のバイアスがあったかもしれない」とまとめている。