緩和ケア(palliative care)は、非がん患者においても潜在的ベネフィットがあることが、カナダ・トロント大学のKieran L. Quinn氏らによる住民ベースの適合コホート試験で示された。人生の終末期(end of life:EOL)が近い患者の多くは、救急部門の受診および入院の頻度が高く、それが人生の質を低下するといわれていれる。緩和ケアは、がん患者についてはEOLの質を改善することが示されているが、非がん患者に関するエビデンスは不足していた。今回の結果を踏まえて著者は、「EOLは、医師のトレーニングへの持続的な投資とチーム医療で行う緩和ケアの現行モデルの利用を増やすことで改善可能であり、医療政策に重大な影響を与える可能性があるだろう」と述べている。BMJ誌2020年7月6日号掲載の報告。
救急部門受診率、入院率、ICU入室率などを緩和ケア非受療患者と比較
試験はカナダ・オンタリオ州の住民を対象に行われた。2010~15年に、医療機能を問わず入院し、最後の6ヵ月間に医師による緩和ケアを開始した、がんおよび非がん疾患で死亡した成人11万3,540例を特定。入院医療リンクデータを用いて、死因、病院のフレイルリスクスコア、転移がんの有無、居住地(オンタリオ州のすべての医療サービスを編成する14の地域医療統合ネットワーク区分で分類)、および緩和ケアを受ける蓋然性(年齢・性別で導出した傾向スコア)で患者を特徴付け、直接的に照合して1対2の割合となるよう緩和ケアを受けなかった対照群を特定した。
主要評価項目は、救急部門受診率、入院率、ICU入室率と、初回緩和ケア後の在宅死vs.院内死のオッズ比(OR)であった。患者の特性(年齢、性別、並存疾患など)で補正を行った。
緩和ケア群のほうが救急部門受診などは低率、在宅/ホーム死は高率
慢性臓器障害(心不全、肝不全、脳卒中)に関連していた非がん死患者において、緩和ケア受療群は非受療群と比較して、救急部門受診率(粗発生率1.9[SD 6.2]vs.2.9[8.7]人年、補正後率比[RR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.85~0.91)、入院率(6.1[10.2]vs.8.7[12.6]人年、0.88、0.86~0.91)、ICU入室率(1.4[5.9]vs.2.9[8.7]人年、0.59、0.56~0.62)は低かった。さらに、これらの患者では、院内と比較して在宅またはナーシングホームでの死亡ORが高いことが確認された(6,936例[49.5%]vs.9,526例[39.6%]、補正後OR:1.67、95%CI:1.60~1.74)。
全体的に、認知症による死亡患者においては、緩和ケアはICU入室率の低下とは関連せず(0.2[2.1]vs.0.2[2.1]人年、1.03、0.96~1.11)、救急部門受診率(1.2[SD 4.9]vs.1.3[5.5]人年、補正後RR:1.06、95%CI:1.01~1.12)、入院率(3.6[8.2]vs.2.8[7.8]人年、1.33、1.27~1.39)の増加と関連したが、在宅/ナーシングホームでの死亡ORは低かった(6,667例[72.1%]vs.1万3,384例[83.5%]、補正後OR:0.68、95%CI:0.64~0.73)。
一方で、これらの割合は、認知症で死亡した患者が居宅で暮らしていたかナーシングホームに入所していたかによっても異なった。同居宅患者では、医療サービスの利用と緩和ケアとに関連性はみられず、在宅での死亡ORが高かった。