米国エール大学医学部のMary E. Tinetti氏らは、「転倒は高齢者によくみられる一般的な病的状態である。またその効果的な予防対策は明らかになっているにもかかわらず、十分に活用されていない」として、コネティカット州において、地域医療や看護・介護関係者に転倒防止対策を採るよう介入を行った。結果、転倒関連の外傷を減らすことができたと報告している。NEJM誌2008年7月17日号より。
介入で投薬量減少やバランス・歩行訓練などを推奨
調査は非無作為化デザインにより、プライマリ・ケア医師の臨床実践が変わるように介入した「介入地域」と、介入しなかった「通常ケア地域」で、転倒による外傷の発生率を比較した。
介入の内容は、医師および在宅看護・外来リハビリテーション・高齢者施設に勤務するスタッフに対して、転倒予防の効果的リスクアセスメントと戦略(例えば投薬量の減少、バランス・歩行訓練)の採用を奨励することだった。
転帰は、転倒による重症外傷(股関節等の骨折、頭部外傷、関節脱臼)の発生率と、70歳以上の転倒による医療サービス利用(千人年当たり)とした。介入は2001~2004年に行い、2004~2006年に評価した。
重症外傷発生率、医療利用率比ともに低下
介入前における、転倒による重症外傷の補正発生率(千人年当たり)は、「通常ケア地域」で31.2、「介入地域」では31.9だったが、評価期間中の補正発生率は、「通常ケア地域」の31.4から「介入地域」は28.6へ低下(補正率比0.91、95%ベイズ信用区間:0.88~0.94)。
介入前と評価期間を比較すると、転倒関連の医療利用率(千人年当たり)は、「通常ケア地域」では68.1から83.3へ上昇したが、「介入地域」では70.7から74.2への上昇にとどまった(補正率比:0.89、95%信頼区間:0.86~0.92)。
今回の試験で介入を受けた医師の比率は、62%(プライマリ・ケア診療所212ヵ所中131ヵ所)から100%(在宅医療機関26ヵ所すべて)まで幅があった。
以上を踏まえTinetti氏は、「転倒防止に関するエビデンスの普及と、臨床実践を変える介入を組み合わせて行うことが、高齢者の転倒による外傷を減らすことを可能とする」と結論した。
(武藤まき:医療ライター)