臨床試験に関連する利益相反とは何か、どのような場合にそれを報告すべきかについての研究者の理解には、かなりのばらつきがあり、非営利的な金銭的利益相反(政治的な意図を持つ政府系医療機関による試験への資金提供など)の重大さを認識しつつも、その報告と管理は困難と考える研究者もいることが、デンマーク・オーデンセ大学病院のLasse Ostengaard氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年10月27日号で報告された。営利組織からの資金提供と、著者の金銭的な利益相反は、統計学的に有意な結果や好意的な結論の報告の頻度が高いことと関連する。また、利益相反は、試験のデザインや運営、解析、報告の仕方に影響を及ぼす可能性があるとの懸念が広まっている。利益相反が、試験の特定のデザインの特徴やバイアス、問題を最小化するための管理戦略に及ぼす適切でない影響に関連するメカニズムは、十分には理解されていないという。
20人の研究者へのインタビューによる定性的研究
研究グループは、臨床試験の研究者は自分が携わった試験に適切でない影響を及ぼす利益相反をどのように認識しているか、その潜在的な影響を最小限に抑えるためにどのような管理戦略を行っているかを評価する目的で、インタビューによる定性的研究を行った(研究助成は受けていない)。
対象は、臨床試験の方法論や統計学の専門知識を持ち、10件以上の臨床試験に参加したことのある研究者であった。インタビューの対象となる研究者は、Web of Scienceの検索と機縁法(snowball sampling)で特定された。52人の臨床試験研究者に電子メールでインタビューを申し込み、20人(38%)が応じた。インタビュー時間中央値は24分(範囲:15~58)だった。
インタビューは、2017年12月~2018年7月の期間に電話で行われ、録音して逐語的に文字に起こされた。文字起こしは分析ソフト(NVivo 12)で読み込まれ、体系的にテキストを凝縮して解析された。半構造化インタビューは、金銭的および非金銭的な利益相反に重点が置かれた。
利益相反の定義や閾値を使い分け、報告時期の基準も異なる
インタビューの対象となった研究者が参加した臨床試験の件数中央値は37.5件(IQR:20~100)であった。20人の内訳は、医師が12人、他の医療従事者が2人、生物統計学者が4人、他の専門家が2人で、男性が18人、女性は2人だった。10人(50%)は企業が資金を提供した試験、19人(95%)は企業が資金を提供したが独立に運営された学術的試験、18人(90%)は非営利的な資金提供による試験を経験していた。主に薬剤の試験に参加した研究者が11人(55%)、主に薬剤以外の試験に参加した研究者が6人(30%)、薬剤と非薬剤の試験がほぼ同じ割合の研究者が3人(15%)だった。
事前に規定された2つのテーマ(利益相反の影響、管理戦略)と、2つの追加テーマ(利益相反の定義と報告)について検討した。利益相反の影響として認識された例には、質的に劣る比較対象の選択、無作為化の手順の操作、試験の早過ぎる中止、データの捏造、データへのアクセスの妨害、情報操作(spin、たとえば、結果の過度に好意的な解釈)などが挙げられた。
利益相反を管理する戦略の例としては、情報開示手続き、試験のデザインと解析からの資金提供者の除外、独立委員会の設置、データへの完全なアクセスを保証する規約、解析と報告に関して資金提供者による制限がないことなどが挙げられた。
また、臨床試験研究者は、利益相反と考えられることの定義や閾値を使い分けており、利益相反の報告の時期に関して異なる基準を示した。さらに、非営利的な金銭的利益相反(たとえば、政治的な意図を持つ政府系医療機関による試験への資金提供)の重大さは、営利的な金銭的利益相反(たとえば、製薬企業や医療機器企業による資金提供)と同等またはそれ以上であるが、その報告と管理はより困難と考える研究者もいた。
著者は、「これらの結果は、臨床試験における利益相反を評価するツール(TACIT)の開発のためのエビデンスの基盤として不可欠な要素である。TACIT(tool for addressing conflicts of interest in trials)は、臨床試験報告の読者に、利益相反の情報へのアクセスの仕方、その情報の処理の仕方の指針を示すことを目的とし、とくに系統的レビューを実施する際に、利益相反のある臨床試験の結果をどう解釈するかについての思考様式を提供するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)