現行の倫理規定では、すべての科学論文について利益相反(conflicts of interest:COI)の開示が求められているが、米国・ハーバード・ビジネス・スクールのLeslie K. John氏らによる無作為化試験の結果、論文の査読にCOI開示は影響しないことが示された。著者は、「査読者が出版を評価する論文のあらゆる質の評価に、COI開示が影響していることを確認できなかった」としている。科学雑誌やアカデミックな倫理基準において、査読者、エディターおよび読者が、可能性があるバイアスを検出・補正できるように、著者に対してCOI開示が命じられている。しかし、これまでその行為が目的を達しているかを確認する検討は行われていなかったという。BMJ誌2019年11月6日号掲載の報告。
Annals of Emergency Medicineの論文レビュープロセスで無作為化試験
研究グループは、医学専門誌において、査読者に対する著者のCOI開示の影響を評価するため、Annals of Emergency Medicineの論文レビュープロセスにて無作為化試験を行った。
2014年6月2日~2018年1月23日に、論文を評価するレビュワーを2群に無作為に割り付け、論文を評価する前に、一方には著者による完全なInternational Committee of Medical Journal Editors(ICMJE)のCOI開示文書を提供し(介入群)、もう一方には提供しなかった(対照群)。両群のレビュワーは、通常どおり8つの質の格付けで論文を評価。その後に、反事実的スコア(counterfactual score)―もしCOI開示を受けていたら与えたと考えるスコアについてサーベイを受けた。介入群のレビュワーには、どのようにスコアを付けたのか、開示を受けていなかったら与えたであろうスコアを思い出してもらった。また、レビュワーのCOI開示に対する姿勢および人口統計学的特性の評価も行った。
主要評価項目は、レビュワーがレビューの提出時に論文に割り当てた全体的な質(Annals of Emergency Medicineでの出版についての全体的な好ましさ)のスコア(1~5段階で評価)。副次評価項目は、レビュワーが7つの特定の質の評価で与えたスコアと、フォローアップサーベイで示された反事実的スコアであった。
試験期間中にレビューを行ったレビュワーは838人、論文は1,480本であった。
開示の有無による論文の質の評価への影響見られず
1,480本のうち525本(35%)が、COIがあることを報告していた(955本[65%]はないことを報告)。525本のうち、資金提供が商業者であると報告していたのは115本(22%)、非営利組織は118本(23%)、政府140本(27%)、大学41本(8%)などであった。研究グループは、レビュワー838人による3,041例のレビューを入手。各論文は平均2.1例(SD 0.9)のレビューを受けていた。人口統計学的特性が入手できたレビュワーは、介入群361人、対照群368人で、男性がそれぞれ76%、75%、平均年齢45.74歳、45.72歳などであった。
解析の結果、著者のCOI開示の提供は、レビュワーによる論文の質の評価に影響を及ぼさないことが示された。全論文における質の評価の平均スコア(SD)は5段階評価で、対照群2.70(1.11)、介入群は2.74(1.13)であった(平均群間差:0.04、95%信頼区間[CI]:-0.05~0.14)。COIがあったと報告していた論文においてさえも、対照群2.85(1.12)、介入群2.96(1.16)であった(平均群間差:0.11、95%CI:-0.05~0.26)。同様に、その他7つの質の評価においても、COI開示の影響はみられなかった。
レビュワーは、COIを重要であると認識しており、それらが開示された場合は、評価を修正する可能性があると考えていた。しかしながら、反事実的スコア(平均2.69)と実際のスコア(同2.67)に差はみられなかった(平均群間差:0.02、95%CI:0.01~0.02)。利益相反があると報告していた場合でも、資金提供元のタイプ(政府、非営利会社など)による影響の違いはみられなかった。
(ケアネット)